京料理の世界は常に変化し、どこかで新たな発想が登場している。それは目に見えないところでかもしれないし、驚くべき大変化を見せてくるものかもしれない。確かなことは、京料理を背負っていく覚悟を持った料理人こそが、今、この京都で…
画像ギャラリー京料理の世界は常に変化し、どこかで新たな発想が登場している。それは目に見えないところでかもしれないし、驚くべき大変化を見せてくるものかもしれない。確かなことは、京料理を背負っていく覚悟を持った料理人こそが、今、この京都で変革を行っているということ。
ここに3人の料理人がいる。彼らの歩みを止めない姿に出会った。三者三様……“3つのやり方、3つのストーリー”。その取り組みと生み出される料理の数々、そして惜しみなく注ぎ込まれる情熱は今味わうべき、今そこにある京料理。
第1回目の登場は『おが和』店主・小川洋輔さん。彼の止むことのない京料理への思い、そこにある変革。
日本料理の域を超えることなく、京都らしさをしなやかに捉え、独自の料理を提供する小川洋輔さん。「日本料理は食材も手法もボーダレスになりましたが、私は奇抜なことはできない性分。なので、目先の新しさより培った経験を深めた自分なりの料理を表現したい」と味の深化を大事にする。
『京都吉兆』で6年半、『祇園さゝ木』で8年半研鑽を重ね、料亭と割烹の仕事をみっちり修得した後、2010年に独立。2022年2月に祇園から烏丸御池の一軒家に移転したのを機に、広々としたカウンター10席と作業用のカウンターからなる空間を設け、さらなる高みを目指している。
独立後はシェフや若手料理人との交流を深め、自分の料理のあり方をより考えるようになったと言う小川さん。全国から取り寄せる逸品食材で作る料理や料理人のパフォーマンスがもてはやされる今、果たしてそれが京都で出す料理と言えるのだろうか、それでお客は喜んでくれるのだろうか……と。自問自答の末、いき着いたのは京都の野菜やだしとの掛け合わせで楽しませるシンプルな和食だった。
「地元の食材を用い、生産者と関わりながら地域を活性化し、料理をもって利益を還元していくことが料理屋の理想の姿。以前から地元の野菜は使っていましたが、もっと京都らしさを感じてもらいたいので今は一品一品に京都や近郊の野菜を使うようにしています。縛りにはなりますが、食材を通して土地や風土をより知ることができ、料理にストーリーが生まれ、提供の仕方も変わりました」
例えば、旬のホタルイカは京都や近郊で調達した15種類の野菜と一緒にしてサラダのような仕立てに。炊く、蒸す、焼く、酒で炒る、揚げるなどしてだし地に漬け込んだ春野菜を色とりどりに盛り合わせ、従来の辛子酢味噌和えを軽やかに進化させている。
「野菜本来の甘みや苦味を楽しんでもらいたいので、辛子酢味噌は加減できるように野菜の下に敷き、熱々の野菜だしと昆布オイルをかけています。だしを加えると風味が増し、オイルは和食からはみ出したくないので太白胡麻油です」
焼き物にも必ず野菜を合わせ、塩焼きだけで充分おいしい金目鯛には旬の葉玉ねぎが添えられる。葉玉ねぎは金目鯛のアラでとっただしでさっと炊き、玉ねぎの甘みとだしの旨みでおいしさを格上げ。魚と野菜とだしあんを一緒に食べて味が完成する、新しいスタイルの焼き物だ。
コースの終盤に必ず登場する野菜料理もしかり。ホワイトアスパラは、カニと和えたり、白味噌仕立てにしたりもするが、温玉の組み合わせはどことなくイタリアンやフレンチのよう。でも、食すと黄身酢のような酸味で、アスパラ独特の甘みと苦味の両方がかつお節の香りとともにグイグイ引き出される。
「個人的にイタリアンが好きなのでヒントにすることはありますが、何をもって和食とするか、京都で味わってもらう料理と言えるかはいつも考えます。ちゃんと和食に着地させたいので、調味料やお酒も京都のものを意識して選んでいます」
カウンターのライブ感と共に供される料理は、いずれも素材が際立ち、シンプルにして繊細。旬の野菜だけが持つ美しさ、京都という土地が醸すここだけのおいしさが心と体にしみ渡る。
おが和
住所/京都市中京区姉西洞院町515
電話/075-211-6005
営業時間/12:00(一斉スタート)、18:00〜19:00(入店)
休業日/日曜、月曜と水曜の昼定休
備考/要予約。昼4,560円、9,600円 夜26,000円 、税・サービス料含む
編集/エディトリアルストア
取材・執筆/西村晶子
写真/伊藤信
※情報は令和5年3月23日現在のものです。
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