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歴史に名を成す名手たちも苦しんだイップス

単なるイップスについては、すでにご存知の通りである。この奇妙な疾患に対して心理学者は「ショートパット苦手症候群」と命名、全治する方法はないと匙を投げている。

国によっては「ジャークス」「トウィッチ」と呼ぶところもあるが、要するに1メートル前後の短いパットになるほど全身が硬直、ケイレンを起こす場合もある。それもビギナーならいざ知らず、ベン・ホーガン、サム・スニード、アーノルド・パーマーといった名手たちが突如として発病、チョンと打てば入る距離で顔面蒼白の狼狽ぶりを見せるのだ。

多くの学者が研究した結果、これはキーパンチャー、彫金師、文筆家、駅員といった「腕の習慣性」を伴う職業に従事する人だけに見られる神経障害であり、習慣からくる慢性疲労に加えて、失敗に対する不安も金縛りの一因とされる。

むかしは、ベテランになるほど発病率も高いといわれた。ところが1976年、ヨーロピアンツアーに彗星の如く現われた若武者、ベルンハルト・ランガー選手が、いざショートパットに取り掛かる段になると先ほどまでの勢いはどこへやら、モジモジ、ソワソワした挙旬、1メートルの距離から2メートルもオーバーさせたかと思うと、今度は50センチしか進まず、たとえ19歳であってもイップスは容赦なく感染することが証明された。

「私の場合、手首が金縛り状態になって、動かすタイミングさえつかめなかった」(トニー・ジャクリン)

「片手でパッティングするのは、ゲームに対する畏敬の念が足りん、よって500ドルの罰金だと役員は吠え立てたものだ。連中は俺がイップスに泣きながら、仕方なく片手で打っているとは想像もしないだろう」(ボビー・クランベット)

その対策として、サム・スニードはポロ競技からヒントを得たと言うが、かの有名なサイド・サドル型に踏み切った。

パーマーの場合、真似するわけにもいかず、試行錯誤の末に股間からタマを打ち出すスタイルを考案した。ところが、その男性放棄的パフォーマンスに対して女性ファンから非難囂々、あわてて元のスタイルに戻したのはいいとして、一時は深刻な「1メートル恐怖症」に泣いたものである。いまではルールによって、どちらのスタイルも禁止されてしまった。

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おとなの週末Web編集部 今井
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