「苦手の呪縛」を解くためにも、苦手と口にしたら否定する パッと見はむずかしそうに思える問題も、設問を読んでいくうちに、案外、ストンと解読できてしまうものです。 問題文を読む前から、みずから「得意ではない」と思い込んでしま…
かつて「偏差値29」から東大理科二類に合格した伝説の東大生がいました。杉山奈津子さんです。その日から十うん年……現在は、小学生から高校生までを指導する学習塾代表として、心理学から導いた勉強法を提唱しています。その杉山さんが、受験生を持つ親に贈る「言ってはいけない言葉」と「子どもの伸ばす言葉」。近著『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』から一部を抜粋し、新学期にお届けします。
先入観が、できるものもできなくしてしまう
自分が、学生だった頃にどのように勉強してきたかを振り返ってみてください。数学の教科書や参考書で、因数分解や微分積分など、目次に書いてある単語を見ただけで、「自分にはきっと理解できない」と決めつけてしまったことはありませんか。
実際に問題に取り組む前から、先入観で「これはきっとむずかしいものだ」とイメージを固めてしまえば、できるものもできなくなってしまいます。
そのためにもできるだけ、「これが苦手……」という逃げの言葉を、軽々しく用いないようにしましょう。誰にでも、得手不得手の分野はあるものです。しかし、能力は、挑戦し努力することで伸ばせるものだということも忘れないでください。
たとえば、「私は、算数が苦手なんだ」と、子どもが発言したら、「そうなんだ」と肯定してしまう前に、「そうかなあ? そうは思わないけど」「ほら、ここまで問題が解けているじゃない。すごいよ」という言い方で、ビシッと否定してあげてください。
「自分は算数が苦手だ」と思い込んでしまうことで、心理学でいうラベリング効果が働いてしまい、実際にそのとおりになってしまうからです。本来ならば解ける問題なのに、勝手に「難解なもの」と意識してしまうことにより、頭が理解することを拒否してしまいます。
「自分ならできそうだ」と思い行動するのと、「どうやら自分にはむずかしそうだ」と思い行動するのでは、結果がまるで変わってしまうのです。
学校で、通常のレベルのテストを、あるクラスの生徒にだけ、「今回の問題はむずかしい」と前置きして解かせた実験があります。すると、実際にそのクラスだけ、テストの平均点がほかのクラスより低かったそうです。自分にとってむずかしいという先入観を持つことで、ほんの少し考えただけで、「解けそうにない……」と早々にあきらめてしまうのでしょう。
「苦手の呪縛」を解くためにも、苦手と口にしたら否定する
パッと見はむずかしそうに思える問題も、設問を読んでいくうちに、案外、ストンと解読できてしまうものです。
問題文を読む前から、みずから「得意ではない」と思い込んでしまうと、脳が理解するのをブロックし、内容が頭の中に入ってこなくなります。むずかしいのならば、解けなくても仕方がないと、自分で自分を納得させてしまっていては、頑張って理解しようという熱意もなくなってしまいます。
勝手な先入観で決めつけた、「苦手」という言葉に振り回されないようにしましょう。特に、理系、文系のような言葉で物事をカテゴライズし、その結果、導いた「偏見」で苦手意識を持ってしまうと、手をつける前から、「この教科はできないに違いない」と思い込
んでしまうのです。
子どもが、「苦手だ」という言葉を軽々しく使っていたら、そのたびに否定して、「苦手の呪縛」から解いてあげましょう。
マンガと文/杉山奈津子(すぎやまなつこ)
杉山塾代表。1982年、静岡県静岡市に生まれる。静岡雙葉高校3年時の実力模試は「偏差値29」だったが、独学勉強法で1浪後、東京大学理科二類に合格。2006年、東京大学薬学部を卒業後は、作家、イラストレーター、心理カウンセラーとして活動。2020年、静岡市内に「杉山塾」を開き、小学生~高校生の学習塾代表として活動中。近著に『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』(講談社ビーシー/講談社)がある。