実在する料理店の人気料理をテーマに取り入れた作品が、今度単行本として刊行されます。神原月人氏が書いた『絶望オムライス』という題名の小説です。題名の『絶望オムライス』も広くとらえると、「縁起メシ」に入るかと思います。幸運を…
画像ギャラリー実在する料理店の人気料理をテーマに取り入れた作品が、今度単行本として刊行されます。神原月人氏が書いた『絶望オムライス』という題名の小説です。題名の『絶望オムライス』も広くとらえると、「縁起メシ」に入るかと思います。幸運を招く料理とはいかなるものか。著者・神原さんに原稿を寄せてもらいました。
本作のタイトルにもなっている『絶望オムライス』にはモデルがあり、西小山の地で半世紀近く続く老舗・杉山亭を、ほとんどそのまま使わせていただきました(杉山亭のご主人には、小説の舞台になる旨の許可を取ってあります)。
今回の作品は第9回ネット小説大賞を受賞した『絶望オムライス』に、4章を加筆したものです。ネット小説大賞受賞の際には、「おとなの週末web」でご紹介いただきました。
ネット小説大賞『絶望オムライス』のモデルは東京・西小山の“絶品オムライス”
https://otonano-shumatsu.com/articles/271546
(あらすじも前回の記事に紹介されています)
さて、今回のテーマは、このオムライスの話ではなく、「縁起メシ」です。
近々刊行される単行本『絶望オムライス』には、各話に「縁起メシ」の話が出てきます。
モデルがあるのはオムライスばかりでなく、作品で紹介した別の「縁起メシ」にも実在のモデルが存在します。
有名料理人が提唱する「縁起のいい食べ物」という考え方
「縁起メシ」に関していうと、東京都港区南麻布にある日本料理店・分とく山の総料理長の野﨑洋光さんが提唱する「縁起食」の考え方を参考にしています。
和食の達人との呼び声も高い野崎さんは、『野崎洋光の縁起食』(桜雲社)というご本も出されています。吉事を招くレシピや郷土の縁起食を紹介しています。
私の今回の作中に登場する縁起メシのレパートリーは、野崎さんが考案されたレシピを元に作者・神原が実際に作り、実食した上で物語に溶け込むような記述としています。
作中の登場人物である「小料理 絶」の女将である妙ママの言葉として、
「縁起メシは、吉事到来の願いを込めた食事のこと。その料理を食べることで、これからの未来が良くなるように願いを込めるの。美味しいものを食べると、それだけで気持ちも身体も元気になるでしょう」
と紹介しています。
ご存知のように、年越しそばや正月のおせち料理は縁起が良いとされます。
なぜ年越しのそばの縁起が良いかと言うと、そばは切れやすく、今年一年の厄を切る、という意味があるからです。
細くて長いため、健康長寿の願掛けをするには打ってつけ。そばという植物は厳しい気候風土でも育つから、その強さにあやかる、という側面もあります。
しかし、年に一度しかない、特別な日のよそ行きの料理だけが縁起メシではありません。
誰にでも作れる普段着の料理であっても、食べた当人が特別だと思えば、どんなにありふれたものでも、それは縁起メシとなります。
食べることで良い縁起に繋げるから、縁起メシ。
洋食屋に置き去りにされた過去を持つ匠海の縁起メシはオムライスですが、「小料理 絶」に集う面々にも、それぞれの縁起メシがあります。
ある登場人物の縁起メシはステーキであり、また別の登場人物の縁起メシはプリンであったりします。
なぜ、その料理が当人にとっての縁起メシとなり得たか。主題のオムライスばかりでなく、登場人物それぞれの縁起メシにまつわるエピソードも作品に欠かせぬ存在です。
幸せのサンドイッチとは
妙ママが作る縁起メシのひとつに、“幸せのサンドウィッチ”があります。
トーストにサンドするのが、しいたけ、春菊、しらたき、しらす。
すべて“し”がつく“四”つの素材を合わせて、純和風の白和えを作ります。
野崎さんの縁起食のレシピを拝見するまで、熱々のトーストに冷たい白和えを挟む、という発想がなかったのですが、これがなかなか斬新な味わいでした。
なんとも言えない、不思議なおいしさと食感……。
こちらの“幸せのサンドウィッチ”は、失恋の痛みを引きずる客には“失恋に効くサンドウィッチ”として供されます。
中身は同じ、でも効能が違う。
それが縁起メシの真骨頂です。
さて、あなたの縁起メシはなんですか?
ぜひとも物語を味わいながら、ご自身の縁起メシを探ってみてくださいね。
『絶望オムライス』は、2023年5月31日に刊行となります。
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【目次】
第一章:絶望オムライス
第二章:アノ街ーノ天国
第三章:女優の演技メシ
第四章:自立プリン
第五章:「小料理 絶」の希望