いまどき、東京で10年続く店だって頭が下がるのに、それどころか歴史を重ね続けること100年以上。長く受け継がれ、愛され続ける老舗には、味そのもの以上に、“語り伝えたい”味があります。寿司、洋食、バー、和菓子に惣菜、定食か…
画像ギャラリーいまどき、東京で10年続く店だって頭が下がるのに、それどころか歴史を重ね続けること100年以上。長く受け継がれ、愛され続ける老舗には、味そのもの以上に、“語り伝えたい”味があります。寿司、洋食、バー、和菓子に惣菜、定食から駄菓子まで、今に継がれる味、そして新たな時代と共に生きていく味を、たっぷりご披露いたします。連載「100年超えの老舗の味」の今回は、東京・神田神保町『ビヤホール・洋食 ランチョン』店主の情熱とこだわりが生む最高の味わいをご紹介!
歴代マスターの情熱とこだわり、ビールは2回に分けて注ぐ
午後3時。靖国通りに面する建物の2階にある『ビヤホール・洋食 ランチョン』は、ランチが終わり、ゆったりした時間が流れている。お客が座るテーブルの上にあるのは、豊かな泡と黄金の輝きが美しいビール。昼夜通し営業のこちらでは、午後3時といえどお茶の時間ではない。ビールを楽しむ時間なのだ。
注文のたびにサーバーの前に立ち、ビールを注ぐのは4代目マスターの鈴木寛さん。この店でビールを注ぐことができるのは、創業以来、原則マスターだけ。注ぐ直前にグラスに水のベールを張り、泡とビール、絶妙な黄金比でビールを注ぐ。一連の流れは動きに無駄がなく、美しい。
「泡は、ビールをおいしく保つための蓋なんです」。ビールを2回に分けて注ぐことで、きめ細やかな泡を作り、おいしさを閉じ込める。この注ぎ方、先代からレクチャーを受けたわけではないという。「幼い頃から父がビールを注ぐ姿を見てましたから、自然と身についたようなものです」。
厳しい常連の目、「若僧が注いだビールなんて」
それでも『ランチョン』のビールを愛して通い続ける常連の目は厳しい。「私の父が代替わりした頃、先代(2代目)を知るお客さんに『若僧が注いだビールなんて』と飲んでもらえなかったことがあるそうです」。お客に認められてこそ、マスターとして一人前。そうして供されるビールは、温度管理も徹底している。
「キンキンに冷えたビールは、うちには存在しません。冷たすぎるとビール本来の味がわからないんです。のど越しだけなら、炭酸水と変わらない。だからうちでは、気候や温度に合わせた適温を調整して出しています」。なるほど、絶妙な温度で注がれたビールは、ふくよかで味わい深い。キンキンに冷えたビール信者だった自分を反省する。
オムレツ(ホワイトソース添え)1200円
創業は1909年、西洋料理店が始まり
『ランチョン』が誕生したのは明治42年(1909年)のこと。駿河台下の一角に、西洋料理店として店を構えたのが始まりだそうだ。「ビールは当初から置いていました。食事は定番は残しつつ、新しいメニューも取り入れています」。「新しい」と言っても登場してから20年、30年は経つほど、長く愛されているものが多い。また、洋食メニューに野菜がたっぷり添えられているのも特徴的だ。
ニシンのマリネ 1200円、アサヒ生ビール(480ccグラス) 700円、自家製ロースハム 1100円
一緒に供される自家製トマトドレッシングも「おいしい!」と評判になり、販売するようになったという。「ビールがおいしい洋食屋」というスタンスは、100年たっても変わらないのだ。ほかにも、何世代にもわたる常連には、子供の頃は両親に連れられて洋食を食べ、成人してここで初めてビールを飲んだ、なんていうエピソードも。大人も子供も楽しめる魅力が、ここにはある。
[住所]東京都千代田区神田神保町1-6
[電話]03-3233-0866
[営業時間]11時半~21時半(21時LO)、土11時半~20時半(20時LO)
[休日]日・祝
[交通]地下鉄半蔵門線ほか神保町駅A5出口から徒歩約1分
撮影/西崎進也、取材/田久晶子
※2023年5月号発売時点の情報です。
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