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チチ・ロドリゲスがぶっ殺してやろうと思った相手

「女性だからといって、理由もなしに侮蔑の色メガネで見る男性ゴルファーこそ、この世で最悪。彼は偉大なるゲームまで侮辱している」(アガサ・クリスティー)

「クラブを振り上げた瞬間、狙いすましたようにセキをする奴がいた。二度までは偶然ということもあるので我慢したが、いよいよ三度目、まさにダウンスウィングに移ろうとする直前、またもやエヘン! これで間違いなし。俺は次のホールでスタンスを決めると、ワッグルを2~3回、それからテークバックすると見せかけて、肩越しにその野郎に言ってやったものだ。

『おい、先にセキをしろ!』

奴さん、それからというもの、おとなしくなったぜ」(レイモンド・フロイド)

「全米オープンの最終日、私の相手はあごが長いところからチンと呼ばれるルー・ウォーシャムだった。残り9ホール、野郎がやった汚い作戦は全米の誰もが承知だろう。奴ときたらパッティングする私の背後に立って、ハッ、ハッと、わざと荒い息を吐いたものだ。それも15番あたりから2メートルと離れていない場所に近づいて、さらに切迫した感じのハッ、ハッが続いた。私は離れるように要求したが、いつの間にか近づいて蒸気機関車も顔負け、周囲の酸素のすべてを吸い込む勢いで妨害が続いた。お陰で私の神経はズタズタ、新聞が書き立てたように、ルーは全米オープンに勝ったのではなく、タイトルを騙し取っていったのだといまでも思っている」(サム・スニード)

「過去に遭遇したイヤな奴の代表が、私の場合、某大学の教授だった。とにかく相手のプレーのすべてに干渉して得意顔。アドバイス行為がルールに抵触することはご存じないらしく、人のスウィング、クラブ選択にまで平気で口を出す。たとえば相手のミスを見るなり、早い! ヘッドアップ! ボールを見ろ! 必ずこの3つの言葉のどれかを浴びせるのだ。グリーン上でも彼の干渉はとどまらず、人のラインにあれこれ口を出すばかりか、打ち方が強い弱いと文句のつけ放題、我慢ならなかった。そこで私と弟のジムは示し合わせた上で逆襲に転じることにした。教授が打った瞬間、まったく同じセリフを大声で合唱してやったのだ。すると礼儀知らずの教授もついにたまらず、憤然とクラブハゥスに引き上げて行った。最悪のゴルファーを追っ払うには、この手に限ると思うね」(作家、アンドリュー・ワード)

「コースに棲息する最もイヤな奴とは、自分のスコアを適当にごまかした上で、何はさておき相手のスコアを聞きたがる奴」(ゴルフ評論家、フレッド・ピノン)

「プレー中は我慢できる。無視すれば済むことだ。ところが世間に溢れるゴルフ自慢、こいつだけは我慢ならない。スコア、飛距離、まぐれ当たり、バーディ、イーグル、優勝、ついでにクラブまで自慢する奴もいる。目は閉じることができても耳はふさげない。連中はそこにつけ込んで、すべてを自慢のタネにする。こいつらこそ本当にイヤな奴だ」(作家、ジェームズ・フォルバーグ)

「プロになって間もないころ、虫酸が走るほどイヤな奴とプレーしたことがある。そいつは郡の偉い役人で、ゴルフもそこそこの腕前だったが、何よりも飛びっ切りの負けず嫌い。勝ってるときは上機嫌だが、ひとたび負けると辛抱ならず、何かにつけ因縁をつける野郎だった。何しろ相手は役人、長いものには巻かれるしかないと思って俺はタヌキを決めていた。ところがある日、俺が絶好調で相手が絶不調、勝負にならなかった。するとアタマにきたね。こちらのスコアを聞いたあと、必ずエッという顔をして首をひねるのだ。毎回これをやられてみろよ、ついには相手をブッ殺してやろうと思うから、ゴルフというのは恐いゲームだね」(チチ・ロドリゲス)

(本文は、2000年5月15日刊『ナイス・ボギー』講談社文庫からの抜粋です)

『ナイス・ボギー』 (講談社文庫) Kindle版

夏坂健

1936年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。毎年フランスで開催される「ゴルフ・サミット」に唯一アジアから招聘された。また、トップ・アマチュア・ゴルファーとしても活躍した。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

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おとなの週末Web編集部 今井
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