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「PARADISO」映画『疵』のサントラ

極私的3曲の2曲目は東映映画『痴』(1988年)のオリジナル・サウンドトラックの中の「PARADISO」だ。『疵』は本田靖春原作の『疵-花形敬とその時代』を梶間俊一が監督した映画だ。ベースはヤクザ映画なのだが、単なる任侠ものに仕上げていないのが素晴しかった。陣内孝則、藤谷美和子、加藤治子など役者も良かった。

サウンドトラックは日米共同制作でエヴァン・ルーリー、マーク・リボーなども参加して、サントラ盤は1988年に発売されている。主題歌「PARADISO」の作詞は松本隆、作曲とヴォーカルが南佳孝だった。

愛しているけど自分は幸せに出来ないから 自分を振って陽のあたる場所へ戻るように悟す男の心情がたまらなくロマンチックでハードボイルドだ。“PARADISO 天国への階段の 真下で俺達は抱き合い眠り夢の無い夢見る”という歌のエンディングの部分が強く心に残 る。南佳孝はあえて熱唱せず、押さえながらも歌の熱さを引き出した。本当にこの人のヴォーカルは凄味がある。

「眠れぬ夜の小夜曲」ショートフィルムのような曲

極私的南佳孝の名曲3曲目は1973年のデビュー・アルバム『摩天のヒロイン』に収められた「眠れぬ夜の小夜曲」(作詞・松本隆)。3分に満たない短いレゲエを取り入れたサウンドだ。父親は交際に反対し、娘に見合いさえすすめている。さらに悪いことに、その彼女は主人公の彼を置いて出て行ってしまった。だから彼はベッドの中で眠れず、眼を閉じて小羊を数えている。そして、明日が今日と違って天気になることを祈っている。天気になったら、いっちょうらいの服でめかし込んで、別れそうな恋人に会いに行くと決める。

本当に短いショートフィルムのような曲なのだが、自分が今よりずっと若かった頃、失恋するとこの曲を聴いていたのを思い出す。さり気無いのにいつも心に届かせる南佳孝というヴォーカリストらしい名曲だ。

南佳孝の名盤の数々。中央上が、ライヴ・アルバム『1973.9.21 SHOW BOAT 素晴しき船出』で、左下が『摩天楼のヒロイン』

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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