「独学力」向上!トレーニング受験理論

「チラ見法」こそ勉強に意欲的な生徒はやっている 極限まで追い込むトレーニング「オールアウト」との関係性

トレーニング受験理論

「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第15回では、筋力ト…

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「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第15回では、筋力トレーニングの「オールアウト」に触れながら、勉強で効果的な「チラ見法」について考えます。

大学時代のベンチプレス

数学は思考力を鍛えることが大事だと言われますが、思考力の鍛え方について明瞭に教わることはあまりありません。「すぐに答えを見ずに、自分の頭で考えなさい」というのがだいたいの教えです。しかし一部の生徒が実行している思考力を鍛える勉強のやり方があります。今回はそれをご紹介しましょう。

筋力トレーニングの一種にベンチプレスというものがあります。ベンチの上で仰向けになり、バーベルを持ち上げるトレーニングです。大学時代、サークルの練習でベンチプレスをやることがありました。ベンチプレスは目的によっていろいろなやり方がありますが、私たちがやっていたのは、自力で持ち上げられる回数が10回ぐらいの負荷(おもり)をかけて、それを2~3セット行うというものでした。

最初のセットは比較的スムーズに持ち上げられますが、2~3セット目の後半になると、筋肉が疲労し、バーベルを持ち上げるスピードが急速にダウンします。さらにそのセットの9回目か10回目の限界回数あたりでは、力をふりしぼっても思うようにバーベルが上がりません。下手をするとバーベルを腕で支えられずに大けがをすることがあるため、必ず補助が1人か2人つき、トレーニング者が自力で持ち上げられないときは補助者がバーベルを支えます。

ベンチプレス

自分の限界を超えた先に……

さて、なんとか10回持ち上げたら、それで終わりではありません。もう自力では持ち上げる力はないのですが、補助者の助けを借りて、さらに2~3回持ち上げるのです(このようなトレーニングを「フォーストレップ法」といいます。フォーストレップ(Forced Reps)とは、「強制的にくり返す」という意味です)。

このときには、自力で持ち上げる限界を超えているので、力を振り絞ってはいるのですが、どれだけ自力で持ち上げられているのか分かりません。ほとんど補助者の力で持ち上げているかもしれませんが、その中で残されたわずかな筋力もすべて出し切って限界を超えるべく、
「アァーッ」
とか
「ウォーッ」
とか雄叫び(おたけび)を上げながら、力を振り絞るのです。

ベンチプレス学習法

このときの筋力の感覚は忘れられません。自力で出来る限界を超え、他者の力を借りて踏み込んでいる領域ですから、普段決して感じることの出来ない異次元の感覚です。私の拙い表現力ではとても言い表すことは出来ないのですが、疲労とも苦痛とも言えず、むずむずするような形容しがたい違和感でした。

さて、このように、筋肉を極限まで追い込み、すべての力を出し切る状態を「オールアウト」といいます。筋力トレーニングでは、極限まで筋力を追い込むと、高いトレーニング効果が得られると言われています。

思考力のオールアウトを引き起こす

このサークルでの筋トレの経験が、私の勉強の指導に影響を及ぼしています。トレーニング受験理論の発想の原点でもあります。

バーベルを自力で限界の回数まで持ち上げた時、「力を目いっぱい出し切り、もうこれ以上は余力が残っていない」という状態から、「少し余裕はあるが、あと1回はぎりぎり持ち上げられない」という状態まで、余力の幅があります。それをオールアウトの状態に持っていくのが補助者の助けを借りるフォーストレップです。

このフォーストレップを勉強の指導に応用したのが以下のような方法です。

生徒が解けない問題があったら、まずはその問題をどのように、どこまで考え、どこでつまづいたかをヒアリングします。そのうえで必要と思われるちょっとしたヒントを一言与えます。それで解けなければ、どのような定理・公式を使うのか、どのような解き方をするのかなどをほのめかします。それでも解けなければ、途中まで解答を教えます。

一度に解答を与えるのではなく、少しずつ小出しに教え、出来るだけ生徒本人の思考力を働かせて解いてもらうようにします。解答を教えてしまえば、生徒の思考力はそこからは働かないからです。このようにして教えると、生徒の思考力が鍛えられ、次第に自分で考えて解けるようになっていきます。

意欲がなければやらない「チラ見法」

上記の方法は、サポートをしてくれる講師や家庭教師が必要ですが、自学自習で思考力を鍛えるにはどのようにすれば良いのでしょうか。それを可能とするのが「チラ見法」です。

問題集によっては、ヒントが書かれている場合があります。問題が解けないときは、まずこのヒントを見てみます。しかしこのとき、あまりしっかり読もうとしないことです。チラッと見てハッと気づかされることがあれば、そこでヒントを見るのをやめ、自力で解いてみるのです。

ヒントを見て分からないときは、解答を見ます。このときもチラッと見ることが大事です。そして、ここからなら解けるという箇所があれば、そこから自力で解くようにします。このように少しずつヒントを得ながら、自分の思考力を限界まで働かせるようにすることで、思考力を鍛えることが出来るのです。

このチラ見法は、私自身も学生の頃に、誰から教わるともなくやっていた方法ですが、決してオリジナルの勉強法ではなく、勉強に意欲的な生徒ならやっている方法です。しかし裏を返せば、意欲がなければやらない勉強法でもあります。なぜなら、解法を暗記する方法に比べて負荷の高い学習法だからです。しかし、解法暗記学習であっても、思考力が伴わなければ期待するほどの結果は得られません。数学が苦手な生徒にはぜひチラ見法に取り組んで欲しいと思います。

「チラ見法」のポイント3点

【トレーニング受験理論とは】
一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい競技の世界で勝ち抜けないからです。自学自習が勉強時間の大半を占める受験も同様です。自学自習のやり方で学力に大きな差が出るのに、ほとんどが生徒自身に任されて我流で行われているのが実情です。トレーナーのように受験生の“伴走者”となり、適切な助言を与えながら、自学自習の力=独学力を高めていく学習法です。

圓岡太治(まるおか・たいじ)
三井能力開発研究所代表取締役。鹿児島県生まれ。小学5年の夏休みに塾に入り、周囲に流される形で中学受験。「今が一番脳が発達する時期だから、今のうちに勉強しておけよ!」という先生の言葉に踊らされ、毎晩夜中の2時、3時まで猛勉強。視力が1.5から0.8に急低下するのに反比例して成績は上昇。私立中高一貫校のラ・サール学園に入学、東京大学理科I類に現役合格。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学在学中にアルバイト先の塾長が、成績不振の生徒たちの成績を驚異的に伸ばし、医学部や東大などの難関校に合格させるのを目の当たりにし、将来教育事業を行うことを志す。大学院修了後、シンクタンク勤務を経て独立。個別指導塾を設立し、小中高生の学習指導を開始。落ちこぼれから難関校受験生まで、指導歴20年以上。「どこよりも結果を出す」をモットーに、成績不振の生徒の成績を短期間で上げることに情熱を燃やし、学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて難関大学に現役合格した実話「ビリギャル」並みの成果を連発。小中高生を勉強の苦しみから解放すべく、従来にない切り口での学習法教授に奮闘中。

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