一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい競技の世界で勝ち抜けないからです。自学自習が勉強時間の大半を占める受験も同様です。自学自習のやり方で学力に大きな差が出るのに、ほとんどが生徒自身に任されて我流で行われているのが実情です。「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第3回は、「写経学習」の弊害に迫ります。
学校の試験では20位以内をキープ、出題範囲が広い全国模試では伸びない
県立T高校2年の女子高生Cさんは、真面目にコツコツ勉強をするタイプ。学校では、授業をしっかり聞いて板書をきれいにノートに写し、宿題もきちんとこなしていました。T高校は、その県内の公立ではトップ校で、Cさんは学校の試験で20位以内をキープ。模範的な優等生と言えました。
ところが、学校の成績とは裏腹に、出題範囲が広い全国模試ではいまひとつ成績が伸びません。その一番の原因は数学。全国模試では、全国での成績のほかに、その模試を受けた同じ学校の生徒の中での成績も出ます。学校のほとんどの同級生が受ける全国模試での数学の校内順位は、学内テストの順位より20~30番落ちることもありました。
あるとき、Cさんから学校の宿題の質問を受け、ノートを見せてもらいました。すると、赤ペンで〇×がつけてあり、×の問題には青ペンできれいな解答が書き込んでありました。
私「×の問題はどうしているの?」
Cさん「解き方が分からなかった問題は解答を見て、それを写しています。」
それを聞いて、Cさんの勉強のやり方に問題があることが分かりました。
多くの生徒が行っている写経学習
自宅学習では、解けない問題は手を付けることが出来ません。しかしその部分を空白のままにして宿題を提出するわけにはいきません。そこで、解けなければ解答を写すことになります。特に数学が苦手で、自分で問題が解けない生徒ほどその傾向が見られます。
このように解答を丸写しする勉強を私は“写経学習”と呼んでいます。写経学習によって、その問題の解き方を覚えることはできます。しかし自分の頭で考えて解いているわけではないので、応用力までつくことはあまりありません。そのため、学校のテストのように出題範囲が狭く似たような問題が出る試験では問題を解けても、模試や入試のような範囲のない実力試験になると、問題が解けなくなるということが起こるのです。
どのように学習すれば良いかを教わっていないために、写経学習で宿題を済ませている生徒は少なくありません。むしろCさんのように、きちんとノートを作成して宿題を提出していれば、勉強になっていると周囲も本人も錯覚してしまうことがあります。もちろん写経学習がまったく身にならないという訳ではありませんが、効率の悪い学習法だと言えるでしょう。