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一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい競技の世界で勝ち抜けないからです。自学自習が勉強時間の大半を占める受験も同様です。自学自習のやり方で学力に大きな差が出るのに、ほとんどが生徒自身に任されて我流で行われているのが実情です。「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第4回のテーマは「受験数学は思考力か、暗記力か」です。

東大理IIIに現役合格した和田秀樹氏の勉強法

受験数学で成績を上げるためには、自力で問題を解いて思考力を鍛える方が良いのか、自力で解くより答を見てたくさんの解法を覚える方が良いのかは、古くから続く論争テーマです。かつてその論争を引き起こしたのが、“暗記数学”を提唱した和田秀樹氏です。和田氏は、灘高(関西屈指の超名門私立校)出身で東大理IIIに現役で合格し、精神科医をするかたわら“受験技術研究家”の肩書を掲げ、通信教育塾の監修もされています。和田氏は“暗記数学”に目覚めたきっかけとして、次のようなエピソードを語っています。

上位で灘中に入学した和田氏でしたが、中学時代にほとんど勉強せず遊び回っていた結果、灘高に上がるころにはすっかり落ちこぼれていました。そこからはい上がろうにも、高2になってもなかなか成績が上がらなかった和田氏。そこに現れたのが“模範解答屋”でした。

同級生の中に、優等生のノートを借りてテスト範囲の解答を写し、コピーして売る者が出てきたのです。当時はコピー代が高かったため、“模範解答屋”はノートを編集し、紙に書きなおしてコピーしていました。半信半疑ながらそのコピーに飛びついた和田氏。解答を覚えて試験を受けたところ、驚くほどの高得点をたたき出しました。しかも和田氏と同じ程度の成績だった“模範解答屋”までが、いい点をとったのです。

このできごとから、和田氏は“暗記数学”に開眼したといいます。この時点では、学校の試験にしか通用しないのではないかとの疑念もあった和田氏でしたが、高校2年生ながら東大模試でもA判定を取り、東大理IIIに現役合格を果たした体験を経て、“暗記数学”の効果に確信を得たようです。

和田式“暗記数学”

「解法暗記学習」は必須の学習法

当初は物議をかもした“暗記数学”ですが、最近ではそれに類する学習法を見聞することも多くなりました。問題を自分で解くより、解答を見て解法を覚え、解ける問題を増やしていくような学習法を「解法暗記学習」と呼ぶことにします。

私が解法暗記学習を知ったのは20年以上前です。ある私立男子進学高校の生徒のお母さんから、上記の“暗記数学”を引き合いに、「数学は暗記するものなのでしょうか」と質問されたのがきっかけでした。当時の私には論外に思えました。私の高校時代には、数学は思考力を鍛える科目で、そのためには自分の頭を使って問題を解かなければならないという考えが、一般的な風潮だったと思います。私自身もそのように信じて疑わず、1つの難問に対して何時間も格闘したこともしばしばありました。実際、学校の試験前には、解き終わらなかった試験範囲の問題を解答だけ覚えて臨んだこともありましたが、結果に繋がらず、やはりそのような小手先の勉強ではダメだと考えていました。

しかし、さまざまな生徒への指導を通じて、私自身が数多くの問題に取り組んできた結果、学生時代よりも数学の問題への見通しがだいぶ良くなり、解法のバリエーションも広がりました。また、生徒が取り組む問題についても、質だけでなく、量も大事であることを感じるようになりました。その結果、数多くのバリエーションの解法を取り入れることのできる解法暗記学習は、正しく行えば効果の高い学習法の一つであると分かってきたのです。

どれだけ考えても解けない問題は必ずあり、その場合は答えを見て学ぶしかありません。数学が得意な人も、自分が思いつかない解き方というものはあり、それを取り入れることによって、より多くの問題を解けるようになっていきます。そう考えると、「解法暗記」というのは、多かれ少なかれだれもがやっている必須の学習法であることが分かります。解法暗記学習には批判もありますが、その根拠にはしばしば誤解ややり方のまずさなどがあるように思えます。

解法暗記学習
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「暗記」のもつイメージへの誤解...
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圓岡太治
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