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「暗記」のもつイメージへの誤解

将棋の藤井聡太さんが6月1日、史上最年少の20歳10カ月で名人を獲得し、史上2人目の七冠制覇を達成しました。将棋の棋士は膨大な数の棋譜を覚えているといいます。数多くの優れた棋譜から学び、その記憶にもとづいて考えることによって、より高いレベルの思考が可能となるのではないでしょうか。一方、膨大な数の棋譜を単なる丸暗記で覚えるのは至難の業です。棋譜の背後にあるさまざまな思考も含めて頭に入れるからこそ、膨大な情報を覚えられるのではないでしょうか。つまり思考力と記憶力とは相互に影響し合い、高め合うことが出来るものと考えられます。

数学の学習もそれに似ています。数学の中にも記憶すべきことは沢山あり、さまざまな問題を解いてさまざまな解法を頭に入れることで成長が加速され、より高いレベルの思考が可能となります。しかし従来の数学学習では、思考力が重視され、記憶力が軽視される傾向があったように思われます。それはおそらく、暗記と言う言葉に「棒暗記」のイメージがまとわりついているからではないでしょうか。解法暗記において重要な点は、その解き方をきちんと理解し、他の問題にも応用できるようになるかどうかです。それがなければ、解法暗記は酷似した問題にしか使えない棒暗記に近いものとなってしまいます。前回述べた、深く理解することなくただ解答を丸写しする“写経学習”もその類(たぐい)の勉強法です。

受験数学で大切なのは…

解法暗記を思考力へと高める方法

解法暗記学習は以下の3つのステップで行うと効果的です。

(1)まずは何も見ずに自分で問題を解いてみる
(2)解けなかったら、解答を読んで理解し、覚える。解答を自分で理解できなければ、先生や友人に質問して教わる。
(3)少し期間をおいて問題を解き直す。可能ならさらに類題を解く。これにより覚えた解法の定着をはかる。

解法暗記学習では(2)のステップがクローズアップされがちですが、(1)と(3)のステップと噛み合わせることが大事です。

(1)のステップは時間をとります。しかし、いろいろな問題に当たることを優先して、最初から解答を見て覚えていくのは感心できません。(1)のステップを踏むことによって、自分がどの程度まで解けたのか、どこでつまずいたのかなどが分かり、解答を読んだときの理解度やそこからくみ取れるものが違ってくるのです。(1)のステップがなければ、かなり学習効果は低下します。とはいえ、ここで時間をかけすぎると、多数の問題にあたるという解法暗記の利点は薄れます。5~10分考えて分からなければ解答を見るというように短時間で区切ることが大事です。

(2)のステップでは、解答を理解することが重要です。理解がともなわず棒暗記になると、酷似した問題しか解けない単なる応用の利かない知識となってしまいます。分からなければ、分かる人に教わるのが一番です。それが難しければ、その問題の理解は保留にして、一応解法を丸暗記しておきます。学力が上がると理解出来るようになります。
(3)のステップで解答の流れに沿って自らの頭を働かせることで、定着を図るとともに応用力を養います。覚えた解法を使えるようにするために、このステップを怠らないことが大事です。

以上のステップを踏めば、解法暗記も単なる棒暗記ではなく、応用の利く思考力へと高めることが可能となります。

効果的な解法暗記学習のステップ

圓岡太治(まるおか・たいじ)
三井能力開発研究所代表取締役。鹿児島県生まれ。小学5年の夏休みに塾に入り、周囲に流される形で中学受験。「今が一番脳が発達する時期だから、今のうちに勉強しておけよ!」という先生の言葉に踊らされ、毎晩夜中の2時、3時まで猛勉強。視力が1.5から0.8に急低下するのに反比例して成績は上昇。私立中高一貫校のラ・サール学園に入学、東京大学理科I類に現役合格。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学在学中にアルバイト先の塾長が、成績不振の生徒たちの成績を驚異的に伸ばし、医学部や東大などの難関校に合格させるのを目の当たりにし、将来教育事業を行うことを志す。大学院修了後、シンクタンク勤務を経て独立。個別指導塾を設立し、小中高生の学習指導を開始。落ちこぼれから難関校受験生まで、指導歴20年以上。「どこよりも結果を出す」をモットーに、成績不振の生徒の成績を短期間で上げることに情熱を燃やし、学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて難関大学に現役合格した実話「ビリギャル」並みの成果を連発。小中高生を勉強の苦しみから解放すべく、従来にない切り口での学習法教授に奮闘中。

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圓岡太治
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