国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。連載「音楽の達人“秘話”」のシンガー・ソングライター、南こうせつ第3回は、かぐや姫を解散し、ソロ活動を始めた後のエピソードです。
「時代に火をつけた責任」
1975年4月、かぐや姫が解散すると南こうせつは解き放たれたかのように、次々と新しいことにチャレンジを始めた。
“もうこれで好きなことだけをやっていいと思ってワクワクした。かぐや姫が嫌だったんじゃなくて、グループで出来ないことをやれると思ったからワクワクしたんです”
しかし、コンサートを開くと観客は「神田川」がいつ歌われるか固唾を飲んで待っているという状態だった。しかし、南こうせつは「神田川」を歌わなかった。
“「神田川」は意地でも歌わないぞと頑なになって、ソロがスタートして7年間は歌わなかった。封印したんです。でもある日、あの歌から逃げられないんだって思った。ある時代に火をつけた責任みたいなのは、やはり作ったぼくが取るべきだと思ったんだな。それで、結局、ずーっと「神田川」を引きずって行こうと決心したんです。そうしたら楽に「神田川」を歌えるようになった。お客さんも喜んでくれた。肩の力がすっと抜けた感じだったね”
日本で最もステージでおしゃべりするミュージシャン
南こうせつのコンサートには何度も足を運んだ。南こうせつとお客さんの間に一体感があって、とにかく楽しい。絶妙なのが曲と曲の間のトークだ。2時間半のコンサートでおよそ1時間近いトークがある。観客は南こうせつの歌だけでなく、トークも楽しみにしているのだ。
時に鋭いメッセージがオブラートに包まれて発せられることもあるが、大部分は彼の人柄が良く出た温かく、優しい話だ。個人的には南こうせつとさだまさしが、日本で最もステージでおしゃべりするミュージシャンだと思っている。ふたりとも抜群の話術を持っている。