「神田川」懐かしさをかきたてる
極私的3曲目は「神田川」。わずか5分でこの曲を書きあげたと語っている。ギターを弾く方なら分かると思うが、Em/C /D 7/G/B7/Em B7/Em…へと続くコードは、日本のフォーク、それも叙情派の王道と言える。現代のJ-POPではあまり使われないコード進行ゆえに懐かしさをかきたてるのかもと思う。
そして詞はあくまでも昭和だ。詞が描く情景は、神田川の流れる東京には今は消えてしまった昭和だ。Z世代やミレニアル世代の若者には想像しにくい風景だと思う。横町の風呂屋も手拭いをマフラーにすることも現代から考えられないだろう。
それでもこの歌にはひとつだけ、今も通用する真実がある。
“若かったあの頃 何も怖くなかった ただ貴方のやさしさが怖かった”という部分だ。
そこは恋愛の真実をグサリと刺している。風景が、時代が変わっても人の恋心はそんなに変わらないと「神田川」は教えてくれる。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。