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山と海に囲まれた日本屈指の温泉リゾート、熱海。東京からもほど近いこのエリアで、2023年11月18日(土)から12月17日(日)まで、アートによって熱海の魅力を再発見することを目的とした芸術祭「ATAMI ART GRANT 2023」が開催中だ。

メイン会場はアーティストの「住居兼アトリエ」

期間中は総勢100名以上のアーティストが集結。観光施設や宿泊施設など、街のあちこちで公募アーティストと滞在制作型プロジェクト「ATAMI ART RESIDENCE」に参加したアーティスト、計54組が展示を実施する。

さらに、今年は「温泉」にまつわる7つのスポットで拡張現実を利用した「AR湯巡りスタンプラリー」も新たに展開中だ。ここでは3年目を迎える芸術祭の見どころを、写真とともにレポートしていきたい。

「熱海芸妓見番」で開催されたオープニングセレモニー

2023年の「ATAMI ART GRANT」のテーマは「巡 − Voyage ATAMI」。去年展開していたエリアに加え、今年は「シーサイドエリア」や、メイン会場となる「ATAMI ART VILLAGE」での展示を拡大。

イベント期間中は当日大人3000円でサテライト会場の「ACAO FOREST」や来宮神社、熱海魚市場など、熱海市街地半径3キロ以内の至るところでアートを鑑賞することができる。

会場を巡るにあたって注目なのが、新エリアとして加わった約5000坪の土地を活用したメイン会場の「ATAMI ART VILLAGE」である。

「ATAMI ART VILLAGE」 photo by Ryuichiro Suzuki

300人のアーティストが熱海に暮らす未来を目指すプロジェクトの一環として、統合型リゾートを経営する「ACAO SPA & RESORT」が設営した同エリアは、熱海に滞在して制作を行うアーティストの住居兼アトリエとなっている場所だ。そんな制作者たちの空気が感じられる建物の中や周辺には、計7組の作品が展示されているので、覗いてみよう。

サラリーマンの作家が背負う「重い荷物」とは?

展示風景より、坂井存+TIAR「重い荷物」 photo by Ryuichiro Suzuki

中でも存在感を放っていたのは、長年ビジネスマンとして働くかたわら作家活動を続けてきた坂井存(ぞん)さん(1948年生まれ)が手掛ける巨大ゴムチューブ彫刻である。彼は、1999年からクワガタ虫のような奇妙なフォルムのゴムチューブを自らの背中に背負い、長年国内外を訪れるストリートパフォーマンスを続けてきた。

「重い荷物」を抱え、ストリートパフォーマンスを続ける坂井存さん photo by TIAR

作品名は、その名も「重い荷物」。室内に展示されたスーツにネクタイ姿で約20kgの荷物を背負って歩く作家の写真はいかにも辛そうで、社会に揉まれながら歩むサラリーマンの怒りの表現のようにも思える。

とはいえ、人は誰しも「重い荷物」を背負って生きているものだ。神妙な顔で作品を背負う彼の姿は、「あなたが抱える重い荷物は何ですか?」と、鑑賞者に訴えかけているようにも感じる。

実際、ストリートパフォーマンスを行う為、街に出れば怪訝そうに立ち止まる人もいれば、話しかけて触れようとする人もいるそうだ。坂井さんの作品は、作家と鑑賞者の境界を超え、関係をひらく装置なのである。

自然とのコラボレーションが生む「三次元絵画」の迫力

約20万坪の敷地内に13のガーデンを有する「ACAO FOREST」に足を運んだら、空中をキャンバスに見立て、縦横無尽に絵を描く中村岳さんの作品「The Retroactive Space」をぜひ鑑賞してみてほしい。

相模灘を望む丘陵地を覆うようにカラフルな木の板を組んで作られた作品は、「ハーブガーデン」一帯を包み込むほどの大きさだ。見下す海と森の景色も相まって、そのスケールに思わず息を呑む。

「ACAO FOREST」に展示された、中村岳「The Retroactive Space」

「僕の作品は木材を使って作りますが、彫刻ではありません。三次元絵画と呼ばれますが、色を塗った木の板を絵具に見たて、二次元にドローイングするようにパッションのままに空中に絵を描いているんです」と中村さん。

海が荒れれば白波が作品の背景に加わり、夕暮れ時になれば、茜色の空とアートの融合が楽しめる。移りゆく自然の景色と作品の無限のコラボレーションを、全身で体感してみてほしい。

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