ローマの皇帝は、フランスの太陽王は、ベートーベンは、トルストイは、ピカソは、チャーチルは、いったい何をどう食べていたのか? 夏坂健さんによる面白さ満点の歴史グルメ・エッセイが40年ぶりにWEB連載として復活しました。博覧強記の水先案内人が、先人たちの食への情熱ぶりを綴った面白エピソード集。第41話をお送りします。
友人とはメロンのようなものである。美味を見つけるために百も食べてみなければならない――メリメ――
生涯独身で完全菜食主義者だったプラトン
哲学者プラトンは80年の生涯を独身で通した。彼が愛したのはシチリアのシュラクサイの僭主ディオニュシオス一世の義弟ディオンただ1人。つまりプラトンは男色家であった。世界的な用語になっているプラトニック・ラブ(プラトン的な愛)の本当の意味を知ったならば、うっかりこの言葉は使えないことになる。
プラトンは愛人ディオンに逢うために、3度彼の住むシチリアに出かけているが、そのたびにプラトンの説く「理想国家論」を敵視するシチリアの政治家たちによって逮捕され、牢に入れられている。
紀元前360年の夏、3度目の釈放でようやくアテネに戻ったとき、すでに70歳近くだったというから、こちらの裏道もなかなかに深遠なものであるらしい。
この聖哲は、80年の生涯ただの1度も肉と魚を口にしなかった。完全菜食主義を実践しながら「プラトニック・ラブ」、つまり感覚よりも理性を、肉体よりも霊魂を尊ぶ思想を説き続けたが、彼の哲学はむろん師ソクラテスから教えられたものだった。