スープ切れが続き、営業時間は15時までに その頃は18時まで営業していたのですが、あまりにも繁盛し、毎日スープ切れが続くようになり、昭和61(1986)年には千草食堂から現在の屋号となる“らーめんの千草”に変更し、営業時…
画像ギャラリー新横浜ラーメン博物館(横浜市)は2024年3月6日、オープンから30年の節目を迎えました。30周年の取り組みとして、過去に出店した約40店舗が2年間かけて3週間のリレー形式で出店するプロジェクト「あの銘店をもう一度」を2022年7月1日から始めています。このプロジェクトにあわせ、店舗を紹介する記事の連載も同時に進行中。新横浜ラーメン博物館の協力を得て、「おとなの週末Web」でも掲載します。
2023年に創業75周年
第29弾は2023年に創業75周年を迎えた、岩手を代表する銘店「らーめんの千草」さんです。
【あの銘店をもう一度・第29弾・「らーめんの千草」】
出店期間:2024年3月6日(木)~2024年4月7日(日)
※通常3週間の出店ですが、33日間の出店です
出店場所:横浜市港北区新横浜2-14-21
新横浜ラーメン博物館地下1階
※28弾「RYUS NOODLE BAR」の場所
営業時間:新横浜ラーメン博物館の営業に準じる
・過去のラー博出店期間
2004年3月3日~2005年11月30日
岩岡洋志・新横浜ラーメン博物館館長のコメント「まねのできない味、地元に深く愛される“ふるさとラーメン”」
ご当地ラーメンはその地域で繁盛したお店から独立や模倣したお店が自然発生的にそのエリアに増え、長い年月を経て定着した食文化です。「らーめんの千草」さんの創業は昭和23(1948)年。創業から75年以上経っているにもかかわらず、千草さんのある岩手県久慈市内には、同じラーメンを出すお店は1軒もありません。
私はまねできなかったのではないかと思っております。
久慈市民で知らない人がいないほど、千草さんはソウルフードとなっており、お盆や正月などの時期は帰省する地元民でごった返します。私たちは千草さんのようなお店を「ふるさとラーメン」と定義しました。
今でこそ「鶏と水」といったジャンルが出来ていますが、千草さんのラーメンもまさに「鶏と水」だけで、なおかつ昭和23年にこのスタイルを確立したというのは本当に凄いです。
ちょうど10周年(2004年)の時にご出店いただきましたが、その時、現在三代目の圭介さんが子供を授かり、新横浜で出産を迎えました。先日その子供が二十歳を迎え、ラー博に来ていただいたのですが、何とも感慨深いものがありました。
千草さんのラーメンは混ざり物のない鶏の旨味が凝縮された純鶏ラーメンです。今回は初代の頃の味を出すというので私自身も本当に楽しみにしております。
岩手県久慈市とは?「あまちゃん」のロケ地で一躍脚光
まずは岩手県久慈(くじ)市の場所についてご説明します。一番わかりやすい説明として、平成25(2013)年のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」において、ドラマの舞台の1つである架空の市「北三陸市」のロケ地が久慈市です。
東京からは東北新幹線に乗り、二戸駅で降り、そこからスワロー号というバスで1時間程すると到着します。
横浜からは中々行きづらい場所でもあります。地域を把握したうえで、続いて「らーめんの千草」さんの歴史についてご説明いたします。
昭和23年に酪農家夫妻が「千草食堂」を開業、創業当時から鶏だけのスープ
創業は昭和23(1948)年。戦前は酪農家を営んでいた遠藤正夫さん、レイさん夫妻が、隣町で流行っていた支那そばをみて、これならば私たちにもできるのではと「千草食堂」を開業したのが始まりです。
千草のラーメンは創業当時から鶏100%で作られています。
そのルーツはレイさんの実家である岩手県葛巻町で振舞われていたキジ汁です。お客さんが来た時のおもてなしとして、ニワトリをつぶし、そばを打つという昔からの風習があり、これをラーメンにしてお客様にお出ししたらどうかという発想から始まったようです。
創業当時、麺は毎朝一番列車で八戸まで買出しに行っていたようですが、創業から数年後のある日、製麺風景を見てこれならば自分にもできるのではないかと思い、東京から製麺機を取り寄せ、自己流で作るようになったようです。
レイさんはスープ、タレ、ご飯炊きと、厨房のことはすべて一人でこなし、正夫さんは、麺作りを担当し、製麺が終わると店に出て、ホールを担当していたようです。
創業当時は交通の便が悪く、自家用車もあまり無かった時代で、特にとなり村である山形村(昭和20年、21年当時は木炭生産量日本一)から木炭を久慈駅まで運ぶトラックがあり、用事のある人たちはこれに乗せてもらい久慈へ来て用事を済ませ、千草食堂で食事をしてトラックの帰る時間まで待つという習慣があったようです。
先代曰く、この人たちが足しげく通っていただいたことが今の千草に繋がっているとのことです。
「岩手で一番になりたい」二代目の熱い思い
2023年に75周年を迎えた「らーめんの千草」の味は現在三代目へと引き継がれています。昭和41(1966)年、二代目となる遠藤勝さんが千草で働き始めます。
勝さんは服部料理専門学校卒業後、東京都内のレストランで修業。その後「岩手で1番になりたい」という想いの元、千草で働き始めます。
勝さんはラーメン作りに没頭し、さらに千草は繁盛店となり、久慈ではラーメンと言えば“千草”というくらいまで地元では知らない人がいないほどの有名店になりました。
スープ切れが続き、営業時間は15時までに
その頃は18時まで営業していたのですが、あまりにも繁盛し、毎日スープ切れが続くようになり、昭和61(1986)年には千草食堂から現在の屋号となる“らーめんの千草”に変更し、営業時間も15時までとなりました。
そして三代目となる遠藤圭介さんが、平成10年頃から店に入るようになり、現在に至ります。三代目の圭介さんは2004年のラー博出店時の責任者として腕を振るっていただきました。
唯一無二の純鶏スープ、ラーメン1杯に鶏を半分も使用
ラーメンのスープに使われているのは丸鶏と鶏ガラのみ。
一般的にラーメンに使用される、ネギ、生姜、にんにくといった香味野菜までも一切使用しない鶏純粋のスープ。そのスープの決め手は、使用されている鶏にあります。
一般的にラーメンに使用される鶏は、生後45~55日で出荷されるブロイラーですが、千草で使用される鶏は生後550~700日で出荷される生産量の少ない青森県産大型鶏です。飼育日数が長いため余分な肉がつかず赤身が多く、ブロイラーに比べ旨み成分も約1.5倍も含まれており、その旨みがスープのコクとなるのです。
丸鶏の肉の部分とガラを別々の寸胴でとり、濁らないよう「微笑むような火加減」でじっくり煮込み、最後にブレンドをします。スープに使用される鶏の量は想像を絶する約150羽分の鶏(300前分)。提供されるラーメンの丼1杯にはなんと、約0.5羽の鶏が使用されているのです。
鶏の旨みが凝縮したスープは、どこか懐かしく、優しい香りがします。
しかし、今まで食べた事のあるラーメンとは違った珍しい香りでもあります。その正体はスープの表面にキラキラ光る黄金色の”鶏油”です。
スープは透明感の高い澄んだ薄い醤油色。香りとのマッチングは申し分ありません。
原点回帰、初代の味が復活
三代目の圭介さんは今回の出店において、75周年を迎え、原点回帰として初代の頃の味を再現するとのこと。その理由を聞くと、古い常連さんから「あの頃のラーメンを味わいたい」という声が年々増えてきていて、自分でも初代の頃の味はどういうものなのか?という興味と、自分でも作ってみたい、食べてみたいという想いになったとのことです。
圭介さんは、初代の味を知るべく、二代目の勝さんや常連さんから初代の味について聞き込み、研究に研究を重ねました。
圭介さん曰く「大きく作り方が変わっているわけではありません。今の味が優しい味なのに対して、昔の味は今よりも輪郭のあるラーメンで、ほとんどの人がライスを頼むほど、ライスが欲しくなる味わいだったことが分かりました」
では具体的にどのように作り方が違うのか?圭介さん曰く「具体的にはスープの火加減や、鶏油の量だったりと微妙な差ではありますが、完成したラーメンはやはり今のものとは印象は変わります」とのことです。
唯一残る初代が使った丼
初代が千草食堂時代に使っていた丼が1つだけ残っていました。本来ならこの丼でお客さんに出したいのですが、1つしかないため、撮影だけでもこの丼でと思い作ってみました。
スープの作り方自体が大きく変わるわけではありませんが、はっきりとした味を表現するため、いつもより火加減を変えています。
醤油ダレは、丸鶏の肉でとったスープをガラの寸胴にブレンドした後、そこに前日使用した醤油ダレと新しい醤油を注ぎ漬け込みます。
そうする事によって鶏肉から旨みとコクを抽出するのです。前日の醤油ダレを入れることにより、いわゆる鰻のタレ同様、継ぎ足された醤油ダレは日に日に旨みが増し75年分の旨味が継ぎ足されています。
鶏のチャーシューにも75年分の旨味
スープの濃度を上げ、タレの旨味も増し、鶏油の量も今よりも増やしたため、より輪郭のあるラーメンに仕上がりました。
千草の麺は白っぽく、かん水少な目の中細麺。スープとの相性という意味では良き伴侶と言うべきかも知れないほど自然にのどを通ります。
醤油ダレで味付けした鶏のチャーシューは同じように75年分の旨味が含まれています。
75年の歴史が詰まったこのラーメンを、是非この機会にお召し上がりいただければと思います。
『新横浜ラーメン博物館』の情報
住所:横浜市港北区新横浜2-14-21
交通:JR東海道新幹線・JR横浜線の新横浜駅から徒歩5分、横浜市営地下鉄の新横浜駅8番出口から徒歩1分
営業時間:平日11時~21時、土日祝10時半~21時
休館日:年末年始(12月31日、1月1日)
入場料:当日入場券大人450円、小・中・高校生・シニア(65歳以上)100円、小学生未満は無料
※障害者手帳をお持ちの方と、同数の付き添いの方は無料
入場フリーパス「6ヶ月パス」500円、「年間パス」800円
※協力:新横浜ラーメン博物館
https://www.raumen.co.jp/