お好み焼きに牡蠣、穴子。そしてもみじ饅頭。ツウな人ならここにウニクレソン、コウネ(牛の片バラ肉)、ガンスなんかが加わっていく。広島県の名物の食べ物たちである。どれも、どこか「じゃけんのう」的なワイルド感がある気がする(他…
画像ギャラリーお好み焼きに牡蠣、穴子。そしてもみじ饅頭。ツウな人ならここにウニクレソン、コウネ(牛の片バラ肉)、ガンスなんかが加わっていく。広島県の名物の食べ物たちである。どれも、どこか「じゃけんのう」的なワイルド感がある気がする(他県の人がそう言うと怒られてしまうかもしれないが、私・編集Tは広島県出身なので大目に見てほしい)。
そんな広島県は広島県(産)の食の魅力を発信。食を目的とした来広客を増やす取り組み、その名も「おいしい!広島プロジェクト」を展開している。
その取り組みの一環として先月2月8日〜14日の間に、東京ミッドタウン日比谷でプレミアムダイニング『HIROSHIMA GASTRONOMY “Horizon”』が開催された。
『東京にいながら、まるで広島を旅するかのような』食体験を楽しんでもらおうと、フレンチレストラン『中土』の中土征爾(なかどせいじ)さんと、『ベトナム料理とワイン CHILAN』のドグエン・チランさんが考案したコースには、広島県が世界に誇る食材をふんだんに使った料理がずらり。
しかも、それら一皿ひと皿にペアリングを考えられたお酒がつくというのだから。食べる前からテンション高し!
広島県産野菜と牛肉の味の濃さに驚愕
前菜の「やまのまんなかだのマイクロベビーリーフのサラダと旬の野菜」には、爽やかに青味が残るベビーリーフを真ん中に据え、ミニトマトやロマネスコ、蕪、ブロッコリーといった11種の野菜が取り囲むという盛り付け。
泡状になったドレッシングでいただくのだが正直、ドレッシングはいらないと思うほど野菜の味わいが甘く、青く、爽快で濃い。咀嚼するほどにおいしいのだ。
またこのひと皿に添えられた「広島レモンジンの炭酸割」の酸味、苦味が野菜のそれらとほどよく絶妙に絡む。
野菜は、広島県北部の北広島町で熟成堆肥や名水を使って郷土に根差した農業を営む「株式会社やまのまんなかだ」(山田誠代表)のもの。
広島県に住んでいた頃、いろんな野菜を食べていた。しかし、思い出せるのはラーメンにのった青ネギと細もやし、お好み焼きにえっと入っているキャベツという私にとって、それらの野菜の見目、味わいは「まさかこんな野菜が広島で採れているだなんて!?」と衝撃そのものだ。
続いての料理は「比婆牛のステークアッシェ 自家製フロマージュブランのソースと香草オイル」。
広島県北東部に位置する庄原市はかつて比婆郡と呼ばれ、その比婆山の山麓には逆三角形の顔にゴリラに似た体つきの類人猿・ヒバゴンが存在しているとされていた。メニュー名の“比婆”の文字を見て、まず思い出したのがそれというのも、我ながらいかがなものか……。
この比婆牛は江戸時代の天保年間にまでその歴史を遡れる牛で、当初は役牛だったが但馬の系統牛と交配させることで、農林水産祭で天皇杯を受賞する肉牛へと育っていったそうだ。
ステークアッシェは牛肉の挽き肉を使ったステーキのことで、簡単にいうとハンバーグ的な料理だ。しかし、パン粉や玉ねぎといったつなぎを使うことなく仕上げたものなので、素材の肉質がそのおいしさに大いに影響してくる。
比婆牛は赤身の味わいが濃厚で、口の中で溶けていく脂も香り豊かで甘い。それらをググッと引き立てる軽やかに仕上げたソースも秀逸で、あぁ叶うならこの3倍くらいの大きさで食べたい……。
合わせられたお酒は「竹鶴 純米」。米の旨みと心地よい酸のある力強い味わいは牛の味わいを正面から受け止め、むほほという笑みを誘う。
広島といえば、牡蠣!
3皿目は、広島といえばの牡蠣が「牡蠣のフリット 香草とピスタチオのソース」として登場だ。香ばしく揚げられ、グリーンのソースに絡められた牡蠣はクセがなく、ピスタチオの香るソースの苦味やコクと絡まり合って、とにかく旨みの塊として皿に鎮座。
何も考えず大きく口を開けて頬張ってしまったが、しまった。切って食べれば2回は味わえたのに!
広島県北の三次市にある「ヴィノーブルヴィンヤード」で造られた白ワイン「シャルドネ バレルファーメンテーション2022」をペアリングのお酒として出され、すぐに笑顔に。
オーク樽で樽発酵したワインは穏やかな果実味と心地よい酸味を感じさせるリッチな味わいで、濃厚な牡蠣の旨みとともに心地よい余韻を残すのだ。焼き牡蠣、フライ、土手鍋もいいけれど、なんだか美食にこだわる貴族になった気分。
そのあとも海の幸でショウサイフグだ。牡蠣の養殖にとって種苗を捕食するフグは厄介者。それを「ショウサイフグと牡蠣のスープ 生姜オイル」としてひと皿にまとめるだなんて。
牡蠣からの旨み溢れるスープ内には淡白ながら独特の味わいが魅力のショウサイフグ。それを生姜の香りが溶け込んだオイルが見事にまとめ上げている。フグと牡蠣の間に生姜が立って手を繋いでいる感じ? ちょっと子供っぽい表現だけれど、三者の笑顔は食べ手まで笑顔にしてくれる。
さらに瀬戸内に面した竹原市の藤井酒造で醸される「龍勢 和みの辛口 八反錦純米」が、そこにまろやかですっきりとした味わいを加えてくれるのだ。たちまち笑顔は五者に増える。
最後のデザートまで、広島を満喫
料理もいよいよ最後のひと皿に。市長×市議会で今、何かと話題になっている安芸高田市で獲れた鹿を使った「鹿の野草パン粉焼き 女鹿平舞茸添え」の登場だ。
噛むほどににじむ旨みという赤身肉の魅力を讃えた鹿肉。それを包み込むパン粉がサクサクっとした軽快な歯応えとほどよい苦味と香りを、歯切れ良い舞茸の香りが森の雰囲気を添える。
三好ワイナリーの赤ワイン「TOMOE マスカットベーリーA」の果実味、軽やかな渋みも相まって野趣を感じさせながら、なんて上品!
そして甘みと香り豊かな苺のパフェで〆。大満足のコース&ペアリング。
広島県に住む人にこそ知ってほしい、広島食材の魅力
広島県の海の幸、山の幸のおいしさをいろいろ書いてはみましたが、うまく伝わっただろうか。生産者の努力が育んだ素材が素晴らしいからこそ、シェフも腕の振るい甲斐があるのだろう。
そして魚介や酒に比べ野菜や肉類はブランドがまだまだ知られていないけれど、これだけおいしいのだから、きっと広島食材を使いたいという料理人、食べたいという消費者は増えるはずだ。
ただ広島県に暮らす人たちにこそ、これら広島県の食材の魅力をもっともっと知ってもらいたいとも。特別なひと皿にばかりでなく、普段の生活の中に生かされ、次々とカジュアルなメニューが生まれてきてこそ、旅行者にとって広島県が「おいしい」という魅力に溢れた場所になるのだから。
取材・文/編集部武内、撮影/おとなの週末Web編集部