おとなの週末的クルマ考

「シーマ現象」は流行語大賞に バブル期に出現した初代シーマは日本車の大きなターンイングポイントだった!!

今でこそ世界で確固たる地位を築いている日本車だが、暗黒のオイルショックで牙を抜かれた1970年代、それを克服し高性能化が顕著になりイケイケ状態だった1980年代、バブル崩壊により1989年を頂点に凋落の兆しを見せた199…

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今でこそ世界で確固たる地位を築いている日本車だが、暗黒のオイルショックで牙を抜かれた1970年代、それを克服し高性能化が顕著になりイケイケ状態だった1980年代、バブル崩壊により1989年を頂点に凋落の兆しを見せた1990年代など波乱万丈の変遷をたどった。高性能や豪華さで魅了したクルマ、デザインで賛否分かれたクルマ、時代を先取りして成功したクルマ、逆にそれが仇となったクルマなどなどいろいろ。本連載は昭和40年代に生まれたオジサンによる日本車回顧録。連載第10回目に取り上げるのはバブル時代の日本のクルマ界を主役の一台だった初代日産シーマだ。

初代シーマはバブル絶頂期に登場

1980年代、白い4ドアハードトップが飛ぶように売れた”ハイソカー(国産高級車)ブーム”があった。その後、1987年9月に8代目トヨタクラウンがデビューして高級セダンブームが勃発することになる。そのクラウンの対抗馬は日産セドリック/グロリアだったが、日産は東京モーターショー1987でその上級モデルのセドリックシーマ/グロリアシーマ(以下初代シーマ)を世界初公開。翌1988年1月に発売を開始した。

初代シーマはクラウン対抗の日産のフラッグシップサルーンとして1988年1月にデビュー。その衝撃は絶大だった!!

ディスコに明け暮れたあの当時

初代シーマがデビューした頃私は大学2年生で、クルマも好きだったがアルバイトと遊びに明け暮れていた。邦楽は光GENJIブームに沸いていたが、個人的にはサザンオールスターズが『みんなのうた』で約3年ぶりに活動を開始したことのほうが事件だった。そして私が大学に入学した1986年頃から第二次ディスコブーム(第一次は1980年代初頭のサーファーディスコ)だったので、私も頻繁にディスコに通った。学生主催のダンパもいっぱいあったし。

エリア(東京・六本木の日拓ビル)は黒服による服装チェックが厳しく、男だけでは入れてくれなかったので、タダ券を配ってユルかった六本木スクエアビル詣でを繰り返した。JAVA-JIVE(ジャバジャイブ)、VENUS(ヴィーナス)、BINGO BANGO BONGO(ビンゴバンゴボンゴ)が根城だったが、女の子を口説いたりする勝負ディスコは日拓ビルのCIPANGO(シパンゴ)と決めていた。で、六本木エリアに近接する麻布十番にあり、芸能人も多く来ると言われていたマハラジャはタマに行く程度。金曜日の夜の金マハ、懐かしすぎる。

ディスコブームの時は2代目ソアラに乗っているだけでモテた

ディスコブームと六本木カローラ

そのマハラジャ、六本木駅近のスクエアビル、日拓ビルと違って駅から遠い。そのためクルマで来るヤツ(最上級は高級車で送迎)、タクシーで来るヤツ、徒歩(私などこれでトボトボ君と揶揄されていた)の4タイプ存在し、クルマで来るヤツがモテたいためにBMW3シリーズを選んだのが、高級車ビーエム3シリーズが「六本木カローラ」と言われるまでに増殖した理由のひとつだろう。

BMW3シリーズは当時新車で348万~598万円と高価だったが売れに売れた

当時特別な存在の3ナンバー専用ボディ

話をシーマに戻そう。シーマは全長4890×全幅1770×全高1380mmの全車3ナンバーサイズとなる立派なボディが与えられていた。セドリック/グロリアも洗練されたデザインとなっていたがベースながら、伸びやかなフォルム、フラッシュサーフェイス化(極力段差をなくしたボディデザイン)された滑らかな面構成などセドリック/グロリアとは次元の違う高級感を纏っていた。

滑らかな曲面で構成されていてエレガント。当時は窓枠のない4ドアハードトップが大人気で初代シーマも採用していた

セダンよりもクーペが好きだった私から見ても、「最初から3ナンバー専用としてデザインされたシーマのデザインは凄い」と思った。タイヤがボディ内側に引っ込んでいるのを除けば……。

現代に通じる高級感のあるインテリアも初代シーマの売りだった

お金持ちの虚栄心をくすぐった

初代シーマは快適装備にもこだわっていて、特筆は自動車電話。携帯電話が普及した今では想像もつかないかもしれないが、移動しながら電話するなんて高嶺の花。自動車電話は補償金20万円、加入料8万円、月々の基本料金が3万円で、通話料は6秒10円!! ということもありお金持ちのステイタスになっていた。

お金持ちの象徴となっていた自動車電話をディーラーオプションで設定

日産はそれを見越して初代シーマにハンズフリータイプの自動車電話をディーラーオプションとして用意していた。自動車電話を搭載しているシーマは、受信用の黒いTLアンテナと呼ばれる無線アンテナをトランクに誇らしげに装着していた。

スポーツカーに匹敵する強烈な加速

初代シーマを語るうえで欠かせないのが圧倒的な動力性能、加速性能だ。それを生み出したのが255psの新開発の3L、V6ターボ(VG30DET型)で、240psのトヨタソアラ(2代目)を凌駕して当時日本車で最高のパワーを売りとしていた。そのエンジンフィールは、クルマ雑誌『ベストカー』の1988年3月10日号で、「パワー、スムーズさとも世界一級品」と辛口でならした自動車評論家の徳大寺有恒氏も絶賛していた。

新開発の3L、V6ターボは255ps出パワーウォーズの口火を切った

実際に『ベストカー』のテストでは、ゼロヨン加速は15秒18、最高速は227.2km/hをマーク。当時日産車で最速だったスカイラインGTS-Rがゼロヨン15秒03、最高速228.65km/hだったことからも、そのポテンシャルがわかるはず。なお、当時の日本車最速に君臨していたソアラ3Lターボは、ゼロヨン14秒91、最高速241km/hだった。

初代シーマは見た目はエレガントだが、ホットロッド(加速を競うカスタムカー)のようにお尻を下げて加速する様は、高級車らしくなくて少々下品だった。まぁ、よく言えば豪快で、そのギャップもシーマで最大のライバルのクラウンにはない魅力となっていた。

『ベストカー』の1988年3月26日号のページの切り抜き。車重1600kgオーバーの重量級セダンで227.2km/hの最高速は圧巻

お金持ち中高年を魅了しシーマ現象勃発

初代シーマはターボ、ノンターボのノーマルエンジンの2種類を設定し、デビュー時のグレードは、下からタイプI(433万円)、タイプII(478万円)、タイプII-S(500万円)、タイプIIリミテッド(510万円)。433万~510万円という価格帯は、現在なら1500万円前後という感覚だろうか。それほど高額だった。

しかもシーマがデビューした1988年は自家用のクルマは贅沢品とみなされて物品税がかかっていた。乗用車の物品税率は軽乗用車が15.5%、5ナンバー小型乗用車が18.5%、3ナンバー普通乗用車が23.0%!! ということで初代シーマの最上級モデルのタイプIIリミテッドを購入する場合、車両価格の510万円に物品税117万3000円、自動車取得税(車両価格×0.9の5%)22万9500円を加えて合計650万2500円!! 

その超高額車がデビューと同時に爆発的にヒットして日本で社会現象となった。これにより『シーマ現象』と呼ばれる狂騒となったのだ。この『シーマ現象』という言葉は、1998年の流行語大賞にも選ばれた。

シンプルなデザインのリアコンビランプはデビュー時には賛否あったが、飽きがこない時間的耐久性のあるデザインだった

超高額の最上級モデルが飛ぶように売れた

初代シーマの異常なまでの人気を物語るエピソードとしては、デビュー当初の販売比率が、510万円のトップグレードのタイプIIリミテッドが85%で、その後も大きくは変わらなかったという点。当時は景気がよかったこともあり、新車を購入する時は「一番高いの持ってこい!!」というのが当たり前だったにしても凄い話。シーマ人気にトヨタは当然焦りを感じたわけだが、その対策としてクラウンの値引きが大幅に拡大したというのも有名な話。

ステアリング竜王にスイッチ類を集積。ステアリングを斬ってもこの部分は動かなかったので最初は戸惑うが慣れれば使いやすかった

そのほか、ハイソカーブームしかり日本ではどんなシチュエーションにおいても無難な白いクルマが圧倒的に売れているなか、初代シーマはイメージカラーのグレイシュブルーメタリックが約60%で圧倒人気で、これを含めたダーク系が約80%、ホワイト系は20%以下とこれまでの日本車の常識を覆したのも新しさの象徴だった。

イメージカラーで爆発人気となったグレイッシュブルーメタリックのボディカラー

長く愛された初代シーマ

初代シーマはデビューした1988年に3万6000台を販売したのを皮切りに、1991年9月に2代目にチェンジするまでに約13万台を販売。これは月販平均で約2900台とモデルライフ中、常に愛されていたことを意味している。

この長く愛された理由としては、1989年4月から消費税が導入されたのを機に悪しき物品税が廃止されたことが大きい。クルマの消費税はなぜか3%の倍の6%となっていたが、23%から比べると格段に買い得感が増し販売は絶好調。そして3ナンバー車の自動車税の引き下げなども追い風となった。

メーターは当時流行っていたデジタルではなく敢えてアナログタイプを選択

伊藤かずえさんの初代シーマの修復費は2000万円級!?

初代シーマと言えば女優の伊藤かずえさん。1990年に新車で購入して34年後の現在も愛車として乗り続けている猛者だ。2021年には日産の協力のもとフルレストア(修復)。その完成お披露目が日産の銀座4丁目のショールーム『NISSAN CROSSING』で開催され、私ではないがベストカー編集部員も取材に行った。そしてその車両はその後展示され一般にもお披露目されたのでご覧になった方もいるかと思う。

2021年にNISSAN CROSSINGで公開された伊藤かずえさんのシーマ

2021年当時、伊藤さんは新車で購入後30年間、約27万km走ったとコメントされていたが、伊藤さんの初代シーマは内外装、エンジン、足回りなどを完全にレストアして新車のようにピカピカ!! 個人でこのレベルに仕上げるのにはパーツ代だけで500万円くらい、工賃を入れたら2000万円級!? と下世話なことを考えてしまったが、旧車のレストアはお金がかかるのだ。

エンジンもフルレストアを受けご満悦の伊藤さん

中古車は購入後に注意が必要!!

古い日本の中古車が軒並み相場上昇していて、初代シーマはその例に漏れず、今後高くなっても安くなる見込みは小さい。販売台数は多かったが初年度モデルだと36年が経過して古いためタマ数も多くはない。相場は一部のモデルを除いて200万円弱から400万円といったところ。中古車の常でしっかり手を入れたものは高く、現状販売なら安い。

注意すべき点は、乗り心地が柔らかいエアサス搭載モデル。エア抜けなどのトラブルが出やすく、修理するのは30万円程度かかるというので、信頼できる店を探す、または、エアサスではない初代シーマのコイルスプリングに交換するなどがオススメだ。

中古車では修理費が高いエアサスのトラブルに注意したい

高性能に舵を切ったパイオニア

という感じで、初代シーマについて振り返ってみたが、このクルマはバブルの絶頂から崩壊のすべてを見てきたクルマだ。初代シーマ登場後に、日本の高級車は初代トヨタセルシオの登場で飛躍的にレベルを上げた。スポーツモデルにしても一気に高性能化が進んだ。そういった意味では、初代シーマは日本車の高性能化へ舵を切ったパイオニアといえるかもしれない。

そのシーマも紆余曲折を経て、2022年8月に5代目モデルが生産終了となり初代から数えて34年でモデル終了となったのは寂しい限りだ。

2022年8月に生産終了した5代目シーマ。高級車としての存在感が薄く販売面でも苦戦していたため致し方ないが残念

【初代シーマタイプIIリミテッド主要諸元】
全長4890×全幅1770×全高1380mm
ホイールベース:2735mm
車重:1670kg
エンジン:2960cc、V型6気筒DOHCターボ
最高出力:255ps/6000rpm
最大トルク:35.0kgm/3200rpm
価格:510万円(4AT)

【豆知識】
8代目クラウンは初代シーマ登場の前年の1987年にデビュー。ハイソカーブームで人気の高かった7代目を踏襲するキープコンセプトで登場。初代シーマの登場によりかなり追い上げられたイメージが強いが、最終的にはシーマのデビュー初年度を含め累計でもシーマの販売を凌駕。1989年のマイナーチェンジでは、初代セルシオよりも先に4L、V8DOHCエンジンを搭載された。1989年に初代セルシオがデビューした後も高級セダンとして人気を誇った。

日本の高級車の王道といえる8代目クラウン。初代シーマの脅威にさらされたが販売力でカバー。初代セルシオ登場後も不動の人気

市原信幸
1966年、広島県生まれのかに座。この世代の例にもれず小学生の時に池沢早人師(旧ペンネームは池沢さとし)先生の漫画『サーキットの狼』(『週刊少年ジャンプ』に1975~1979年連載)に端を発するスーパーカーブームを経験。ブームが去った後もクルマ濃度は薄まるどころか増すばかり。大学入学時に上京し、新卒で三推社(現講談社ビーシー)に入社。以後、30年近く『ベストカー』の編集に携わる。

写真/NISSAN、TOYOTA、BMW、ベストカー

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