「森嶋」の誕生は東日本大震災が契機となった。蔵に甚大な被害を受け、廃業の危機に陥った。しかし、蔵をできる限り修復し、酒造りを続けることを決意した。太平洋戦争では、空襲により蔵と自宅は全焼。祖父が耐火性を重視して大谷石を使って再建した石造りの蔵だった。その蔵も、3・11でひび割れてしまった。
「森嶋」のラベルの石は、破壊された蔵に転がっていた壁の欠片だ。一石を投じる酒にしたいと、「森嶋」のアイコンに掲げた。種類豊富な「森嶋」に共通するのはピチピチとしたフレッシュさ。軽快な印象ながら、ほどよい飲み応えと余韻がある。
「香りは穏やかに。伝統的にはよしとされない苦味と渋みを、敢えてほのかに感じられるようにしています。このヒラメのような淡い旨みと合うと思います。苦味が魅力の山菜やタケノコとの相性もいいですね。食が進む、不思議とまた飲みたくなる。そんな食中酒を造りたいです」
例年造りを終える7月に漁師から届くアワビを楽しみにしている。アワビの刺身で飲る一杯は、1年間造りを頑張った自分へのご褒美。さあ、もうひと踏ん張りだ。