世界記録を樹立!!
富士重工の初代レガシィに対する意気込みの凄さは、連続10万km走行の世界速度記録へのチャレンジにも現われている。発売前の初代レガシィの最終プロトタイプをアメリカのアリゾナの高速テストコースに極秘で持ち込んでのチャレンジだ。
そこで連続19日間で447時間44分のタイムで10万kmを走破。平均速度は223.345kmをマークして10万km連続走行の世界記録を樹立した。そのほか5万マイル連続走行の世界記録と11の国際記録をマークした。
アリゾナのテストコースは1周9.182kmだったので、周回数はなんと1万870周!! 総合タイムにはドライバー交代、給油、メンテナンスをすべて含むのだが、すべてが気の遠くなるような作業だ。
驚異的な世界記録樹立したのが1989年1月21日で、その2日後の1月23日に日本で初代レガシィを正式発表。その世界記録を大々的にアピールしてプロモーションにつなげた。失敗していればすべての努力、労力が水の泡となるが、失敗することなんてまったく考えていなかったのだろう。
ついにエンジンを刷新
スバルはスバル1000(1966~1969年)で997ccの水平対向エンジンEA52型を登場させた。水平対向エンジンは、左右のピストンが平行に動き、ボクサーがパンチを繰り出すように見えることから”ボクサーエンジン”と呼ばれ、スバルのそれは『スバルボクサー』としてクルマ好きからは認知されていた。
このEA型は設計の古さを指摘されながらも、ボアアップなどによってレオーネの生産が終了する94年まで生きながらえた。それに代わって登場したのが完全新設計のEJ型で、2019年に消滅するまで30年間にわたりスバル車の主力エンジン君臨し、特にレガシィシリーズ、インプレッサシリーズに搭載されたEJ20ターボは名機として誉れ高い。
初代レガシィには、1.8LのEJ18、2LのEJ20、2LターボのEJ20ターボの3種類が設定されていた。
前述の10万km連続走行の速度世界記録をこの新開発のエンジンで達成したのだから恐れ入る。底知れぬ高性能を誰もが認めないわけにはいかなかった。
当時2Lで最高スペック
3種類の新型エンジンのなかでも注目が集まったのは2Lターボ。今ではエンジンスペックではトルクが重視されるが、パワーウォーズ真っ只中では、パワーがあるものが一番偉く正義だった。
当時の2Lターボエンジン車では、トヨタソアラ&スープラの2Lターボモデル、800台限定の日産スカイラインGTS-Rが210psでトップだったが、レガシィセダンRSは220ps!!
地味な2Lクラスセダンがスポーツ&スペシャルティ、グループAレースのホモロゲ取得用の限定車をも凌駕していた。トヨタでもなく日産でもなくスバルが最強というのがセンセーショナルだった。
そしてボクサーエンジン特有の”ドロドロ”とか”ドカドカ”という独特のビートは好き者にはたまらない!!
この最強の2Lターボは、セダンのRSという最強グレードにしか搭載されていなかったが、約半年後にセダン、ステーションワゴンにGTグレードが設定された。ステーションワゴンが欲しいが、ターボの出待ちをしていた人が多かったので販売は一気に伸びた。
4WDは当時最強のアイテム
初代レガシィは、スバル車の伝統である4WDも大きなセールスポイントとなった。初代レガシィは5MT車はフルタイム4WD、1.8Lの最廉価グレードにパートタイム4WD、AT車にはトルクスプリット4WDと3種類の4WDシステムが設定された。
日本では初代三菱パジェロで4WDの優位性がクローズアップされ、映画『私をスキーに連れてって』の影響もあり初代トヨタセリカGT-FOURで若者の憧れの的となり、4WDのイメージは滅茶苦茶高かった。
乗用車の4WDの世界的なパイオニアでありながら、一般ユーザーに浸透していなかったスバルの4WDの認知度を一気に高めた。ハイパワーを4輪で受け止め、いつでもどこでも安心・安全に走れるツーリングカーというイメージをも確立した。
デザインは華がない!?
昔のスバル車を知る人たちは口々に「レガシィの内外装はスバル車とは思えないクォリティ」と舌を巻いていた。見比べるとレオーネと似ているけど、明らかに違うのは一目瞭然。レオーネ譲りのサッシュレスドア、特にワゴンで顕著な伸びやかなプロポーション、ワゴンの2段ルーフ、ピラーをブラックアウトすることで航空機のキャノピーをモチーフとするなど、非常に凝ったデザインだったようだが、大学生だった筆者にはそのよさは理解できなかった。お世辞にもカッコいいクルマではなかったし、華がない単に地味に映っただけだった。
なぜなら当時はトヨタソアラ(2代目)&スープラ(初代)、日産シルビア(S13型)、ホンダプレリュード(3代目)といった華やかなクーペ系が全盛だったし、同じ4ドアハードトップセダンならトヨタマークII(6代目)、カリーナED(初代)のほうが断然カッコよく見えていたからだ。