1919年4月、プレジデント・マッキンレー号に乗せられ、16日かけて横浜から宮城県産カキ400箱(1箱56キロ入り)がシアトルに到着しました。すぐ艀で、サミッシュ湾に運ばれ、海にまかれたのです。そのカキのサイズは大きく、殻には稚貝が付着していました。でもあまりに小さくだれも気がついていませんでした。
ところが不幸にして、大きなカキはほとんど全滅でした。若者たちの心境はいかばかりだったでしょう。わたしはホタテ貝を北海道や青森から輸送して、何度か全滅させた経験がありますので、その心境はよくわかります。まして異国でのことです。
しかし、2~3カ月後、作業員が殻に付いていた稚貝が成長していることに気がつくのです。その成長は驚くほど早かったのです。2年後、17センチメートルにもなっていました。
この経験から、種苗は小さいほど生存率がよく、ひと冬越冬させ、早春に船積みするのが最良であるとわかるなどの貴重な知識を得、その後のカキ人生の大きなステップになったのです。
強烈だが満ち足りた味のオイスターショット
旅の終わりも近づき、シアトルの夜をオイスターバーで過ごしました。「エリオット・オイスター・ハウス」という店です。エリオットとは目の前に広がる湾の名前だそうです。休日のせいか、大変な混みようです。広いテーブル席もありましたが、やはり目の前でカキをむいている光景を見たいのです。
しばらくカウンター席が空くのを待っていました。20種類ほどのカキが、種類や産地別にズラリと並べられています。1種類を半ダースか1ダース単位で注文すると、氷をしいた銀盆にかざりつけられて、客の前に登場するのです。
まず宮城種のパシフィック。これも、キルセン湾、サミッシュ湾、ウィラパ湾など産地によって分けられています。たしかにその海によって微妙に味が違うのです。
東海岸チェザビーク湾のヴァージニカ種(貝柱のところが青色をしているので、ブルーポイントと呼ばれています)、フラット(フランスガキ)、オリンピアなどさまざまなカキがあります。ブルーポイントを食べてみましたが、錆びた鉄をなめたような味がするカキでした。ほとんどの客が注文する人気のカキは、クマモトです。有明海の大きくならない種類のカキがあるとは聞いていましたが、こんなに人気があるとは驚きです。
さっそく注文して食べてみますと、クリーミーな風味でたしかに味もいいのです。殻も内側の黒い緑がきれいで、カップも深い。日本では大型のカキが好まれる傾向にありますが、大きく口を開けなくても食べられるこのサイズが女性客に好まれるのだそうです。