店員の話では、この店は全米第2位の売り上げを誇るオイスターバーだそうです。ちなみに1位はニューオーリンズのフェリックスという店だそうです。ジャズとビールとカキの取り合わせで、それは賑わっているそうです。しかし、ハリケーンが多く心配でした。ニューオーリンズはミシシッピ川河口の汽水域で、ヴァージニカ種の大産地です。
きわめつけはオイスターショットです。ショットとは、強い酒を一息で飲むことだそうです。まずグラスに小粒のオリンピアカキを五個ほど入れます。次にトマト味のジュースを少し入れ、五種類のスパイスをふりかけ味を調えます。最後に注ぐのが、ウォッカのストレートです。妻と娘の「お父さんやめて」という声を振り切り、一気にあおったのです。
はじめは火がついたように口内が熱くなり、目から火花が飛びました。しかし、カキを飲みこむや否や、口中に上品な旨味だけが広がり、いかにも満ち足りた気分になったのでした。
そのとき、はっと気がついたことがありました。死んだ父が、日本では売れないにもかかわらず、養殖を続けていたのは、この味に気がつき、こっそり一人で楽しんでいたのではないかと思ったのでした。オリンピアガキは、大人の味なのかもしれません。
…つづく「「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後はじめた「意外な商売」」では、かきじいさんが青年だったころのお話にさかのぼります。
連載『カキじいさん、世界へ行く!』第12回
構成/高木香織
●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。一方、子どもたちを海に招き、体験学習を行っている。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。