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国連本部での受賞スピーチ

2月9日、表彰式です。いならぶ各国関係者を前に、ブラジル(中南米)、ロシア(ヨーロッパ)、カメルーン(アフリカ)、アメリカ合衆国(北アメリカ)代表に続き、アジア代表のわたしが金メダルを首にかけてもらいました。

わたしを除くヒーロー諸君は、巨大開発・環境破壊者と対決し、うち勝ったような人々でした。グリーンピース(環境問題に取り組む民間の国際協力組織)に属する方々がいたことにも、驚きました。力強いスピーチに圧倒されそうでした。

私の番が来ました。

敬愛する国連森林フォーラムのマッカールパイン事務局長、審査員のみなさま方、フォレスト・ヒーローズの仲間たち、本日お越しのみなさまにごあいさつ申し上げます。

わたしたち北日本の太平洋側は、昨年歴史的な津波にあってしまいました。2万人の方が亡くなりました。その中の1人にわたしの母もおりました。世界じゅうの方々からたくさんの支援をいただきましたことを深く感謝いたします。

大津波で、カキも、船も、家も、ぜんぶ流されてしまいました。

わたしたちは絶望の淵に立たされました。1カ月ほど、海辺から生き物の姿がぜんぶ消えてしまいました。海は死んだと思いました。これで終わりだと思いました。

しかし、どうでしょう。まもなく、海に魚たちが戻ってきました。以前にもまして、海は豊かになったのです。なぜでしょう。それは、海に流れ込んでいる川と背景の森林の環境を整えていたからです。

今日は、わたしのような漁民がフォレスト・ヒーローになるという、20年前ならまったく考えられないことが起きました。漁師のわたしをフォレスト・ヒーローに選出してくださったことに感謝します。

地球上には、3つの森があると思っています。山の森、植物プランクトンや海藻の海の森、そして、森と海の間の川の流域に暮らす人々の心の森です。

わたしたちは、山に木を植えると同時に、環境教育を通して子どもたちの心の中に木を植えてきました。科学的な解明がいくら進んでも、大切なのは人の心に木を植えること。

森は海の恋人――このスローガンをかかげ、今後も運動を推進してゆくつもりです。

本日の授賞、まことにありがとうございます」

思わぬ大きな拍手があがり、ほっとしました。「森は海の恋人」という言葉の力を実感した一瞬でもありました。

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高木 香織
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