4月3日、「森は海の恋人」のスローガンで植樹活動に取り組まれた、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんが逝去されました。2011年の東日本大震災で養殖施設を失った後は養殖業を立て直し、精力的にさまざまな活動に取り組んで、ついには国連森林フォーラムが創設した「フォレストヒーローズ(森の英雄たち)賞」を受賞。本稿での連載『カキじいさん、世界へ行く!』は、生前に出版された最後の著書となりました。多くの人々の心にあたたかな思い出を残した畠山さんを偲び、追悼記事をお送りします。
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春カキが旨い季節だ。夏の産卵期を控え、たっぷりと太った甘く旨みの濃いカキである。ジューシーなカキフライ、セリがたっぷり入ったカキ鍋、炊きたてのカキご飯。茹でたカキに甘味噌をつけて焼くカキ田楽もオツだ。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剝いて、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。レモンをちょいと絞ればなおさらよい。うーん、旨い!
そんなカキ漁師の旅の本が出版された。『カキじいさん、世界へ行く!』には、畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。「カキをもっと知りたい!」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。世界中の国々がこんなにもカキに見せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。これからあなたをカキの世界へ誘おう。
<【追悼】畠山重篤さん…養殖技術で世界中から称賛された、宮城県の漁師「カキじいさん」が私たちに教えてくれた「海と森」の深いつながり>に引き続き、海の仕事人である畠山さんが『フォレスト・ヒーローズ(森の英雄たち)賞』に選ばれて、大都市ニューヨークの授賞式に出かける旅。どんな胸躍る出会いがあるのだろうか。
美智子さまが「森は海の恋人運動」を世界に伝える
わたしの乗った飛行機が、ジョン・F・ケネディ国際空港に着陸しました。国連職員の方が出迎えてくれ、国連本部へ下見に行きました。イースト川に面して、おなじみのビルが建っていました。表彰式場を見たあと、国連森林フォーラム事務局長のジャン・マッカールパイン女史を訪ねました。仕事で横浜に住んでいたことがあるという、親日的な方でした。
東日本大震災で母の小雪を亡くしたことが伝わっていて、お悔やみの言葉をいただきました。
手土産にと、2005年(平成17年)に出版した本『カキじいさんとしげぼう』(講談社)の英語版を手わたしました。じつは、林野庁からアジア代表に選ばれたと知らせを受けた時点で、英語版の制作を決意し、わが水山養殖場に出版部を立ちあげました(といっても、机が1つあるだけの出版部で、耕が家業の合間にとりしきります)。
出版部の名前は「カキの森書房」です。
英訳のきっかけは2009年(平成21年)にさかのぼります。天皇陛下(今の上皇陛下)と美智子さまがカナダ国及びアメリカ合衆国に公式訪問されました。そして、カナダのノバスコシア州シドニー市の海洋科学研究所を見学されたのです。
その折、研究所の所長から、
「カナダでは森・川・海のかかわりの研究を開始しました」
と説明を受けられたそうです。そのとき美智子さまが、
「日本では気仙沼のカキ漁師たちが、もう20年も前から、海に注ぐ川の上流の山に植林をしています」
とお話しされたところ、
「その活動の英語の資料はありませんか」
と問われたというのです。
宮内庁から問い合わせがあったので、「森は海の恋人運動」の心を伝える資料として、『カキじいさんとしげぼう』を急きょ英訳し、簡易な冊子にしてお送りした経緯がありました。国連大使が、そのときの駐カナダ大使だったこともあり、話が弾みました。