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なかなか生まれない新宮さまに「夕刊に間に合わない!」

2月23日、陣痛が始まりいよいよ入院されることになった。予定より1週間早いご出産である。午前1時、美智子さまはお見送りの皇太子殿下に元気に挨拶を交わされて自動車に乗り込み東宮仮御所をご出発された。午前1時50分に宮内庁病院にご到着、新装されたご静養室に入られた。すべては順調であった。

ところが予想外のことが生じた。なかなかお生まれにならないのである。病院のスタッフは全員緊張しきって待機している。美智子さまのお体にぴったりついて離れないかわいい小さなマイクロフォンも、けんめいに自分の大事な職務を果たそうとしている生き物のようであった。マイクロフォンでキャッチされた赤ちゃんの心音は、別室のスピーカーにつながり、規則正しい心音を刻んでいるからである。この音が鳴りやむときが、ご出産なのだ。

宮内庁病院の外には、報道陣が待ち構えていた。「日の出とともにご誕生」というタイトルを勝手に頭に描いていた一部報道陣の目論見は、もろくも崩れた。

「(宮内庁の発表は)1回目が『漸次陣痛が強くなってきている』、2回目が『ますます』、3回目が『さらに』というだけで、以下の文面はまったく同じではないか。4回目は『いっそう』とでもいうのか」

という新聞・テレビ関係者の怒りの声をなだめるのに、職員は大わらわだったという。

やがて「まだか、まだか」「もう(新聞の)夕刊に間に合わない」という悲鳴が聞こえ出すが、おなかの中の赤ちゃんは「まあ、あわてるな」とゆうゆうとしたものである。

ようやく午後3時50分ごろから赤ちゃんのご決心がつき、陣痛が激痛に変わり、午後4時50分に国民待望の力強い産声を上げられた。身長47センチ、体重2540グラムの親王であった。病院内は歓喜の声に包まれた。陣痛が始まってから、病院スタッフにとって緊張と興奮の15時間であった。

(C)JMPA

出産の報に耳たぶまで赤らめて病院へむかう皇太子殿下

美智子さまが宮内庁病院にご入院されたとき、ご出産の直前まで付き添ったのが、ご進講を続けていた歌の師である五島美代子さんであった。五島さんは、かつての自分の出産時の手記をお見せし、「自然の波に乗るように、素直に身をお任せになりさえすれば苦痛は耐えられます」
と励ましたという。

出産に臨んだ美智子さまは、枕の下にメモ用紙を入れて、陣痛と陣痛の合間にお歌をつくられていた。それを五島さんはご出産直前までご覧になっていた。

陣痛の間、皇太子殿下は東宮仮御所でまんじりともせずにお待ちになっていた。
「なにか知らせはないか」とまわりの人たちに何度も尋ねられた。産室近くの電話がひっきりなしに鳴っていたのは、すべて皇太子殿下からの問い合わせの電話だったという。

無事出産の知らせを聞いた殿下は、美智子さまのお好きなコデマリとエリカの花束を持って、宮内庁病院に駆けつけられた。父となった喜びで、耳たぶまで赤みを帯びて、上気した顔で走るように病院に入られたという。

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生命の力強さを「子の紅(くれなゐ)の唇生きて」と詠まれた美智...
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高木 香織
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