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生命の力強さを「子の紅(くれなゐ)の唇生きて」と詠まれた美智子さま

新宮さまは徳仁親王、ご称号は浩宮と名づけられた。活発で、生後間もなくご自分の指をとても強く吸われる。2日目にはぶどう糖液を差し上げたが、さいしょから哺乳瓶のゴム乳首を嫌わず、お吸いつきが上手で強かった。じきに美智子さまのお乳がお張りになり、浩宮さまを抱かれて、直接授乳されるようになった。

ご母乳が豊富だったから、制限せずに欲求のままにお飲ませすることになった。浩宮さまの生まれながらの健啖ぶりに、スタッフはみな顔を見合わせて驚いたという。体重もみるみる増えていった。

このときのご様子を、美智子さまはお歌に詠まれた。

浩宮誕生
含む乳の真白きにごり溢れいづ子の紅の唇生きて

これは美智子さまがお産の間に詠まれたなかから、五島さんが選りすぐったお歌である。「含(ふふ)む」は「ふくむ」の古語。「乳(ち)の真白きにごり」は、若い美智子さまの豊富に出る母乳をいう。初めて母となり、我が子にお乳を差し上げるとき、含ませた乳に吸いつく力強い生命力への感動がまっすぐに伝わってくるお歌である。

それまでの天皇家は、乳人(めのと)がお乳を差し上げるものであった。その慣例をやめ、皇太子妃自らが皇子に母乳を差し上げたのも、前例のないことであった。

ご退院の3月12日は、じつに暖かい日和であった。無心に眠るわが子の顔を眺めながら、浩宮さまをお抱きになってお帰りになる美智子さまの笑顔も、平和で美しいものであった。(連載「天皇家の食卓」第32回)

天皇、皇后両陛下(C)JMPA

参考文献:『皇后陛下御歌集 瀬音』(大東出版社)、『浩宮さま 美智子妃殿下の育児』(佐藤久著、番長書房)、『皇后美智子さま 愛と喜びの御歌』『良子皇太后と美智子皇后』(ともに渡辺みどり著、講談社+α文庫)

文/高木香織
たかぎ・かおり
出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。

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