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白いテニスウェアで颯爽と自転車に乗ってくる美智子さま

美智子さまは、この試合の5カ月前に聖心女子大学を首席で卒業。勉学と同時に、スポーツにも秀でていた。当時の聖心女子大学のテニス部は全国の大学でも有数の強豪校であった。美智子さまは個人レッスンで上達し、「テニスの女王」と呼ばれて、関東女子学生トーナメントで優勝するほどの腕前。今でこそテニスは一般的なスポーツだが、昭和30年代にあっては上流階級のステイタス・シンボルだった。

美智子さまは、白いテニスウェアの上に濃紺のカーディガンを羽織られて、自転車でさっそうとテニスコートに現れる。健康的な美智子さまは、とても美しかった。明仁殿下にとって、美智子さまは大切な人になっていった。

多くの皇太子妃候補が浮かんでは消えた。翌年7月、明仁殿下は自ら昭和天皇と香淳皇后に、美智子さまを皇太子妃に迎えたいというお気持ちを告げられた。

テニス後の喫茶店で、美智子さまと同じココアをご注文

8月、明仁殿下は例年通りに軽井沢に避暑に向かわれた。その数日後、美智子さまもいつもの年のように、家族とともに軽井沢の別荘を訪れている。

明仁殿下は、美智子さまをたびたびテニスに誘われた。運命の出会いの日から、1年が過ぎていた。すでに殿下は、美智子さまを皇太子妃候補として見つめておられる。そんな殿下のお気持ちを察して、テニスが終わったあとにテニスコート近くの喫茶店で一息つくときには、殿下の学友たちはお二人を向かい合わせに座らせるなど気遣ってくれた。

明仁殿下は、ふだんは紅茶を飲まれる。しかし、美智子さまがココアを注文されると、
「おいしそうだな。僕もココアにしよう」
と言って、美智子さまとご一緒にココアを楽しまれたという。

夏も終わりを迎え、中軽井沢にある明仁殿下の学友の別荘でパーティが開かれた。美智子さまも招かれていた。この夜の美智子さまは清楚な純白のワンピースに、胸にはカトレアのコサージュで彩を添えられていた。ラストダンスの「蛍の光」を、明仁殿下と美智子さまはご一緒に踊られた。

(C)JMPA

その2日後、葉山の御用邸では、昭和天皇と香淳皇后のもとに、宇佐美毅宮内庁長官たちが集まり、お妃選考会議が開かれた。

「皇太子が望むなら、一般家庭の女性でもよいのではないか」

昭和天皇のこのご裁断で、皇太子妃候補は美智子さまと正式に決定した。皇族・華族以外の民間から皇太子妃を選ぶのは、かつてないことであった。昭和天皇は時代の空気を読み取られていたのである。

翌日、小泉信三東宮参与は軽井沢の別荘にいる美智子さまの両親である正田夫妻を訪ね、皇室の意向を正式に伝えた。家族会議を開いた正田家の結論は、ご辞退であった。「あまりに身分が違う」というのがその理由である。乗り越えなければならない問題が多すぎる結婚であった。できれば求婚は、なかったことにしたい話であった。

半月後、美智子さまは一人でヨーロッパに旅立たれた。ベルギーのブリュッセルで開かれる聖心女子学院同窓生国際会議に日本代表として出席するためである。やんわりと皇室に辞退の意思を伝える旅であった。

しかし、美智子さまの留守中も、いくども皇室からはご結婚への強い意向が正田家に伝えられた。事態は、「なかったこと」ではすまない状態となっていた。

美智子さまのお心は揺れ動いていた。美智子さまはオランダのハーグから、両親にあててこんな手紙を送られている。

「ここで分かっていることは、美智子がこの結婚を少しでも自分を犠牲にするという見方でいる限り、これはお受けしてはいけないということです。自分さえ耐えてしまえば相手のお方をおしあわせにできるという能力を、自分の中に確信しているのならともかく、そうでない限り、自分もこの結婚で十分しあわせになれたという確信がなければいけないと思います。そうでなければ結局、殿下御自身をおしあわせにすることもできないのではないかと思っております」

明仁殿下もくじけなかった。美智子さまが54日間の欧州の旅から帰ったその晩から、明仁殿下の電話によるプロポーズ作戦が始まったのである。度重なる長い電話の中で、明仁殿下は、天皇の後継として、しきたりによって生後間もなく両親の元を離れて子ども時代を過ごしたこと、家庭へのあこがれ、皇太子の責務など、さまざまなことを語られた。のちに、美智子さまの母はこう振り返っている。

「結局、あのヒューマンな電話が結婚を決めてしまいました」と――。

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結婚という長い旅をともにしてくれたことへの感謝と労い...
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高木 香織
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