結婚という長い旅をともにしてくれたことへの感謝と労い
やがて1959(昭和34)年4月10日、明仁殿下と美智子さまはご結婚された。民間からの初めての皇太子妃である若く美しい美智子さまによって、ミッチーブームが沸き起こった。美智子さまのファッションはもちろん、浩宮さまたちお子さま方への手作りのお弁当のメニューまで、さまざまなものが流行した。美智子さまの行動には、どれも「初めての」という言葉がついた。その新鮮さに国民は魅了された。
一方で、新しい物事には苦労がつきまとう。明仁殿下は天皇陛下となり、美智子さまは皇后陛下となられた。それは平たんな道ではなかった。在位期間は30年に及んだ。
天皇の位を浩宮さまに譲る運びとなり、ご退位を翌年に控えた2018(平成30)年12月23日、天皇陛下(今の上皇さま)は85歳のお誕生日にあたり、お言葉を述べられた。
陛下は記者会見の中で平和への思いや災害の被災者への心を語られたのち、やがて美智子さまの献身についての話題に差し掛かると、感極まったように涙声になられた。
「……私は成年皇族として人生の旅を歩み始めて程なく、現在の皇后と出会い、深い信頼の下、同伴を求め、爾来この伴侶と共に、これまでの旅を続けてきました。……」
そして、天皇としての旅を終えようとしている今、皇后が自分の人生の旅に加わり、60年という長い年月にわたり皇室と国民への献身を真心をもって果たしてきたことを、
「心から労(ねぎら)いたく思います」
と感謝のお気持ちを伝えられたのである。
その日、美智子さまは会見が開かれた皇居・宮殿に付き添い、会見が終わるのを別室でお待ちになっていた。陛下のかたわらには、いつも美智子さまがいらしたのである。(連載「天皇家の食卓」第34回)
参考文献:『天皇皇后両陛下の80年 信頼の絆をひろげて』(宮内侍従職監修、毎日新聞社)。『美智子皇后の「いのちの旅」』(文春文庫)、『美智子皇后「みのりの秋」』(講談社α文庫)、『美智子さまいのちの旅―未来へ―』(講談社ビーシー/講談社)、上記3点渡邉みどり著
※トップ画像は、提供=宮内庁
文/高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。