“やさしさ”ではなく“戦略”の虜になる
レコードで聴く音楽と、日本ワインやナチュラルワイン。そこにお好み焼きがある。飯田さんの故郷・神戸のソウルフードは、研究を重ねた結果、キャベツたっぷり、粉はちょっぴりの軽さを獲得。赤ワインを加えたソースの仕業でワインが進む進むの罪深き一枚だが、大丈夫。デトックスによきかなルイボスティーが用意されている。「やさしさというより、戦略です。うちで飲んだ翌朝は、二日酔いもなく身体がすっきりしてると言われたいから」
やさしい人だと思われなくていい。そう語る彼女はたしかに「どちらからお越しですか?」などと近づいていくこともない。だが雨の日、そっと添えた傘の名札に帰り際気づくような。翌朝の体調にうれしくなるような。その「戦略」はタイムラグをもってじわりと効いてくる。「断ることが嫌。要望に応えられないと、もやっとしたものが残るので。だから断らなくて済むように枠組をつくるんです。レコードのリクエストは受け付けないとか、壁のサインはワインの造り手とアーティストだけとか」
どんな偉い人でも公平に。かまっちゃくれないと知っていながら、大人たちが夜に駆け込む、骨董通り地下一階の赤い部屋。そこは社会をさぼれる、色っぽい保健室。