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調理の粗相を「私のところでよかったです。気にしないで」といたわる紀宮さま

帝国ホテル「孔雀の間」で開かれた披露宴(C)JMPA

清子さんは、結婚前の紀宮さまの頃からおだやかな人柄で知られていた。その一端を垣間見るエピソードがある。

天皇陛下(今の上皇陛下)と美智子さま、皇太子殿下(今の天皇陛下)と紀宮さまのご一家で、お客様をお招きした食事会の席のことであった。食事が終わり、係の人が下げてきた皿を見て、大膳(天皇家の調理担当)の人たちは目を疑った。

紀宮さまの皿の、ナイフとフォークの下に、まるで隠すかのように小さく折りたたまれたラップが置かれていたのである。調理する際に使用したラップが、すべて取り除かれないまま配膳されてしまったのだった。

その日の料理は、茹でたほうれん草でホタテ貝と小エビのムースを包み、ラップでくるんで蒸したもの。蒸しあがったらラップを外し、皿に盛りつけてお出しする料理であった。そのラップが残っていたのだ。

陛下や、大切なお客さまにも粗相があったのではないか――。大膳の人たちは、呆然とした。幸い、下がってきた他の皿にラップは見当たらなかった。

すぐさま大膳の担当者は紀宮さまのもとに行き、お詫びを申し上げた。すると、紀宮さまは微笑みながら、こう言われたという。

「いいえ、私のところでよかったです。大丈夫ですから、気にしないでください」

大膳には、天使の微笑みのように見えたという。どんなに細心の注意を払ったつもりでも、人間のやることだから、失敗することもある。トラブルにあったときに、相手を責め立ててしまうのがふつうかもしれない。それが「私のところでよかった」と言えるなど、実際その場にいたら、なかなかできそうでできないことだ。それ以来、大膳の担当者はすっかり紀宮さまの大ファンになってしまった。

とはいえ、大切なお客さまをおもてなしする席でたびたび失敗があってはならない。紀宮さまのお皿のラップのことがあってから、大膳の人たちは身を引き締め、さらに緊張感をもって調理するようになったという。

おだやかな紀宮さまは、結婚して黒田清子さんとなっても、まわりをやさしいまなざしで包み込みながら、天皇家を陰で支え続けていらっしゃるのである。(連載「天皇家の食卓」第38回)

※トップ画像は、御結婚記者会見に臨まれた紀宮清子内親王と黒田慶樹さん(C)JMPA

参考文献:『殿下の料理番 皇太子ご夫妻にお仕えして』(渡辺誠著、小学館文庫)、宮内庁公式ホームページ

文/高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。

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