SDGsという言葉が知られるようになるずっと前から、上皇陛下と美智子さまは環境に配慮されていた。毎日のお食事でも、食材のごみを出さないように気を遣われていたという。天皇家の調理を担当する大膳も、おふたりのお気持ちを大切にしながら、調理に工夫を重ねてきた。食材の皮をむき、形をそろえていればどうしても余分なものが出てしまう。ところが、工夫次第で食材を使い切ったおいしい一品もできてしまうのだ。今回は、環境に配慮し、食材を大切にされるお心の物語である。
コロコロ転がる丸く剥いたジャガイモボール
ふだんは天皇家の食事を作っている大膳(だいぜん)は、よく知られているように晩餐会や園遊会などの大きな催しの調理も担当している。大膳の人たちが野菜を切るとき、例えばニンジンを細長く切るなら、長さも太さも見事に揃っていて、まるで型で抜いたようになる。大膳では、食材はすべて同じ大きさで、長さも太さも形もきちんとそろえるのが基本なのだという。
これは見た目の美しさはもちろんのこと、調理するときに均一に火が通るためにも大切なことなのだ。晩餐会に出す料理などは、ときに100人以上もの人数分作る。その食材はすべて同じ形で、同じ大きさでなければならない。たとえ3ミリ角のスープの浮き身であっても、まったく同じ大きさに切りそろえるのだ。大膳には、こういうきちっとした仕事のできる職人肌の料理人がたくさんいるのである。
晩餐会や午餐会の料理の付け合わせに出すジャガイモは、ボールのように真ん丸く剥く。若い大膳の料理人たちは、ジャガイモボールを転がして、誰が剥いたのが一番早く転がるか競うことがあるという。きれいに丸く剥けているほど、台に引っかかることなく早く転がるのである。
2015年に放送された佐藤健が主演のテレビドラマ『天皇の料理番』の中にも、ジャガイモボールは登場している。斜めにした台の上で、佐藤演じる秋山篤蔵が、大膳の若い料理人たちと丸く剥いたジャガイモボールを転がしてみせ、技術を教えるというシーンがあったから、見覚えのある方もいるだろう。