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着工から4か月で開業

銚子の豪農で、ヒゲタ醤油の創業家である当代・田中玄蕃(たなかげんば)ら地元有力者らは、敷設免許交付から5か月後となる1913(大正2)年1月に、新会社「銚子遊覧鉄道」を設立した。設立趣旨書には、具体的な目的は記されていなかったが、外川周辺の鮮魚、海産物、石材の輸送と、犬吠埼への観光客誘致を目的としたものであることは明白であった。

鉄道工事は、同年3月から始まった用地買収を皮切りに、同年7月には路盤や駅舎といった工事にも着手した。線路の敷設工事は、千葉郡(現・千葉市)に拠点を置いていた「陸軍省鉄道連隊第二大隊」が訓練の一環としてその作業にあたった。

完成は11月で、着工からわずか4か月間という短期間で完成にこぎつけており、これには過去の総武鉄道が途中まで建設を行っていた、あるいは人車軌道として建設を進めようとしていた区間をそのままに流用したからではないかと考えられている。その事実として、1911(明治44)年ごろに観音駅~本銚子駅間にある「玄蕃山(げんばやま/ヒゲタ醤油の創業家のお屋敷があった一帯の山)」を切り開き、鉄道の路盤(軌道敷)を造成した記録も残されているからだ。

当初の計画では、終点を「外川」としていたが、工事着手時点での終点駅は、ひと駅手前の「犬吠」へと変更された。これは、建設費を抑えるためとも言われているが、犬吠駅の建設地が銚子遊覧鉄道と同一資本にあった旅館「暁鶏館(ぎょうけいかん)」(2023/令和5年1月営業終了)にほど近い場所であったことや、近隣にあった”皇族別邸”へ便宜を図ったと見る向きもある。

こうして銚子遊覧鉄道は、同年12月28日に「銚子駅~犬吠駅」間の5.9kmを開業させた。駅数は6駅であり、銚子駅を起点に、仲ノ町(なかのちょう)駅、観音駅、本銚子(当時の路線図には「ほんちょうし」と記述)、海鹿島(あしかじま)、犬吠(同「いぬぼえ」)駅であった。

銚子遊覧鉄道の路線図。「千葉海上郡誌」の地形図より一部抜粋=資料所蔵/JLNA
本銚子駅付近における鉄道連隊による線路敷設工事風景=資料所蔵/JLNA

目論見が外れた鉄道経営

開業後の営業成績は、当初の予測とは異なり毎年赤字が続き、その欠損を“政府からの補助金”で補填するありさまだった。地域経済の発展とともに株主の企業活動にも還元され、利益が得られるもの思っていた思惑は大きく外れることとなった。ところが、“第一次世界大戦(1914〔大正3〕~1918〔同7年〕)”の戦況悪化とともに、アメリカによる鉄鋼類の“禁輸政策”が発動され、国内の鉄材は高騰した。これをチャンスととらえた経営陣は、鉄道を早々に廃止し、線路などの鉄鋼材を売却処分して、投資した資本を回収して逃げ切ることを企てた。

1917(大正6)年10月頃には、この廃止論が具体化し、同年11月19日に臨時株主総会を開き、会社の解散・廃止を議決し、その事実を鉄道院に対し文書で通知した。列車の運転(営業)も、翌20日を最後に取り止めてしまった。同月30日付の鉄道院公告をもって“(鉄道営業の)免許”が失効し、事実上の廃止となった。

不要となった蒸気機関車は、官営八幡製鉄所(福岡県下筑前国八幡村/現・北九州市)へ、客車と貨車は陸奥鉄道(むつてつどう/青森県内を走る現JR五能線の一部)へとそれぞれ売却した。しかし、その売却益は線路(レールなど)を含めても12万円だったという。この額は、経営陣の予想を大きく下回るものとなり、投資者に対する「株式償還」に必要な額=資本金相当額の15万円には及ばなかった。

そこで、さらに線路敷の土地と駅舎などの土地建物を売却して、“帳尻”を合わせようと画策した。1918(大正7)年には、同社の重役を務めていた国会議員を中心に、過去に外川まで延伸を計画していた鉄道院(総武鉄道の後身〔1907(明治40)年に買収のうえ国有化〕→のちの国鉄)に対して、総武本線の延伸を強く働きかけた。もし、この延伸が現実のものとなれば、当然その用地として“旧線路用地”が買収されるものと見込んでのことだった。しかし、残念ながらこの思惑は実現に至らず、売却できなかった。よって同地は、銚子遊覧鉄道の“清算人”が管理することになった。

本銚子(当時の路線図には「“ほん”てうし」と記述)駅~海鹿島(あしかじま)駅間を走る英国ナスミスウィルソン社製の蒸気機関車1号(鉄道院払下げ車)で牽引される貨客混合列車=資料所蔵/JLNA
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廃止された鉄道の再起
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