深夜3時まで暖かく迎えてくれる。淡麗醤油の一杯『鶏そば一文』
川崎駅で夜が更けて、濃厚な刺激を求める気分ばかりではない。静かに体を温め、心まで満たしてくれる一杯がほしくなることがある。
そんな時こそ訪れたいのが『鶏そば一文』だ。
丁寧に引き出された鶏の澄んだ旨みと香りが、優しく染み渡る。雑多な駅の喧騒を離れ、ほっとひと息つけるような、沁みる味わい。深夜3時まで営業している点も、暖かく受け入れてくれるような優しさを感じて、つい足が向いてしまう。
『鶏そば一文』の最大の特徴は、鴨と大山鶏をふんだんに使用した淡麗スープだ。
若鶏と親鳥の鶏油をブレンドしてコクを加えることで、ただあっさりしているだけでなく、深みとまろやかさも備わっている。ひと口飲んだ瞬間に、鶏の優しい甘みが広がり、後味はすっきりとして飲んだ後も口の中に残る上品な余韻がある。
スープに負けない存在感を放つのが、菅野製麺所特注のらぁ麺用麺(番手20)である。全粒粉と長野県産石臼引き粉をブレンドし、低加水で仕上げた麺は、バツパツとした歯切れの良い食感としっかりしたコシが魅力。
淡麗スープと絡むことで、麺自体の甘みも感じられるバランスの良さだ。
トッピングにも強いこだわりが光る。豚バラチャーシューは12時間しっかり味入れした後、低温調理して燻製する。吊るし焼き製法で仕上げることで香り豊かで柔らかく、脂の甘みがスープに溶け込む。国産むね肉のチャーシューは10時間味入れ後、低温調理でしっとり仕上げているから、むね肉特有のパサつきを一切感じさせない。
ねぎは一般的なねぎだと香りが強すぎてスープの繊細さを邪魔するため、京都から九条ねぎを取り寄せている。優しい甘みと爽やかな風味がアクセントだ。
味玉には黄身の濃さを極限まで高めた「マキシマム濃い卵」を使用し、店舗で丁寧に味付け。パプリカを与えて特別に育てた卵で、黄身のトロリとした濃厚さがたまらない。
また、醤油らぁめんと塩らぁめんでメンマを変えている点もこだわりだ。
醤油にはダシで煮込んだメンマを、塩には醤油で煮込んだメンマを使用している。「醤油on醤油は避けたい」という店主の松本さんのバランス感覚が光る。
同店の主力は醤油らぁめん、塩らぁめん、つけ麺、まぜそばの4本柱となっている。醤油らぁめんは王道ながらも上品で幅広い年齢層に支持され、塩らぁめんは鶏の旨みを最もダイレクトに感じられる一杯として女性にも人気だ。つけ麺とまぜそばはガッツリ食べたい時に最適である。
また、6〜9月の期間限定で提供される冷やしそばも見逃せない。昆布水をベースに、昆布ダシとカツオを9:1でブレンド。4種類の昆布を24時間以上漬け込んで取ったねっとりとした旨みの昆布水は、冷たい状態で提供することで、暑い夏でもすっきりとのどを通る。割り下もキンキンに冷やし、温度管理にまで徹底的にこだわっている。
客層は18〜20時の食事タイム、22〜24時半の飲み後、翌2〜3時の終電後と、時間帯によって少しずつ変わる。「女性ひとりでも気軽に入れるように、店内はシンプルでおしゃれなデザインにしています」と松本さん。
派手すぎず、落ち着いた照明と清潔感のある内装は、疲れた心と体を優しく包み込んでくれる。
川崎で飲んだ後や、仕事終わりに「ちょっと良いものを食べたい」と思った時に、ぜひ訪れてほしい一軒だ。鶏の旨みが沁みる一杯が、忙しない日常の中で忘れがちな丁寧さを思い出させる。
■『鶏そば 一文』
[住所]神奈川県川崎市川崎区砂子2-8-5
[電話番号]044-244-0044
[営業時間]11時半〜14時、18時〜翌3時
[休日]無休
[交通]JR京浜東北線ほか川崎駅東口から徒歩5分、京急川崎駅中央口から徒歩5分
川崎という戦う街で、日々エネルギーを消耗しながら生きる私たちにとって、本当に必要なのは「濃厚さ」だけではない。濃厚の奥に潜む優しさ、美しいグラデーション、そして丁寧に沁み渡る旨み。
今回紹介した3軒は、それぞれ違う個性を持ちながらも、心身にそっと寄り添う「癒しの力」を持っている。忙しない日常を終え、ふと良いものを食べたいと思った夜に、ぜひ暖簾をくぐってみてほしい。
熱いスープをひと口すすれば、肩の力が抜け、五臓六腑に染み渡る。
そこにあるのは、ただのラーメンではなく、川崎で生きるあなたへの、職人からの静かなエールだ。
取材・撮影/永谷和樹









