失恋ソングがロックに仕立てになった「DESTINY」
松任谷由実~ユーミンと青春時代を過ごしたという方は多い。そういった方々には、個々それなりのユーミンの名曲があると思う。
荒井由実時代から約50年。ユーミンは名曲を次々と残してきた。ヒット曲ではないが、あの時の心境にぴったりだった、そういう曲も多いと思う。このコラムでは、登場ミュージシャンの最終回に、ぼくの好きな曲や個人的に思う名曲を3曲、紹介している。
ユーミンの数ある名曲を、3曲に絞るのは非常に難しい。目の前に好物を山ほど並べられて、どれを食べたいのが問われてるみたいだから。それでも登場ミュージシャンの最終回に、3曲を選ぶと決めたのは自分だから、個人的にとりわけ心に残る曲を紹介してみることにした。
まずはアルバム『悲しいほどお天気』(1979年)に収められていた「DESTINY」。ある女の子がモテモテで、プレイボーイらしき男の子にふられてしまう。そこで彼女は、自分を磨いて彼をもう一度、ふり返らせ、その上で彼をふって見返そうと思っている。それからしばらくして、女の子は自分なりに今の自分に満足できる状態になった。そんな時期、彼女は自分をふった彼に出会う。完璧にファッション・センスも磨いていたはずなのに、その日に限って彼女は、安いサンダルを履いていた。やはり、この恋は成就しないDESTINY~運命にあった。そんな舞台設定の曲だ。
普通なら、こんな失恋ソングを悲しいバラッドにしてしまう。だが、「DESTINY」は、ビート感のあるロック仕立てになっている。陳腐な失恋ソングにしなかったのは、ずっとコンビを組んでいる松任谷正隆氏のアレンジ力、プロデュース力だと思う。
ユーミンのあらゆる楽曲は、彼女のメロディー、詞、ヴォーカルと松任谷正隆氏のアレンジ、プロデュースが一体となった時に輝きを放ち始めている。
“私は、ピアノのある部屋に籠ってひたすら曲を作る、それだけ。曲ができたら彼に渡す。後はヴォーカルを入れる時まで、その曲がどうアレンジされるかは分からない。彼のプロデュース、アレンジを信頼しているから、私の方で、この曲はこうして欲しいとは一切言いませんね”
ユーミンの楽曲誕生の秘密を、かつての取材で教えてくれた。