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シュールで過激なのに、眺めていると童心に帰るような懐かしさと親近感があります。「粘土道(ねんどみち)20周年記念 片桐仁創作大百科展」(2021年11月20日~12月19日)は、そんなユニークな中にも観る者の心を和ませる不思議な魅力にあふれた美術展です。お笑い芸人・俳優でありながら、芸術家としての顔も持つ片桐仁さんの集大成。東京都内の会場を訪れると、22年に及ぶ創作の歴史が詰まった圧倒的な光景が広がっていました。

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過去最大規模の回顧展 約380点を一挙公開

創作活動の集大成となる“大回顧展”

「子供の頃からの作品まであります。僕に関するアート作品を全て持ってきました。死んでもいないのに『回顧展』になっています(笑)」

2021年11月19日、東京ドームシティのGallery AaMo(ギャラリーアーモ)。「粘土道20周年記念 片桐仁創作大百科展」の内覧会に片桐さんが登場し、今回の美術展について、こう思いを語りました。

創作活動を始めたのは1999年。漫画誌『ヤングマガジンアッパーズ』(講談社)の連載「俺の粘土道」がきっかけでした。文房具や電化製品、日用品などあらゆる物を対象に「何かに粘土を盛る」コンセプトで制作。媒体を変えながらも作り続け、22年の間に200点近い作品が出来上がりました。

「まさか、20年後もやっているとは思わなかった。アーティストになりたいという思いは、心のどこかにありましたんで、ぼくの20年分の集大成がきょうやっとできたなという感じがしますね」

展示総数は約380点。片桐さんは、これまでも、粘土作品展を国内外で開催してきましたが、今回が過去最大の規模となります。当初の会期は、2020年春の予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大で中止となっていました。

粘土アートがズラリ並ぶ会場

過去最大の作品「公園魔」 故郷の“タコ公園”がモチーフ

「過去最大」というだけあって、さまざまな作品が会場には並んでいます。中でも最も目を引くのは、「公園魔」でしょう。口を開けた化け物が長い舌を出している滑り台のような高さ4m×幅5mという巨大オブジェ。今回の個展のために、クラウドファンディングで677万円の資金を集めて制作された「過去最大の作品」です

片桐さんの故郷・埼玉県宮代(みやしろ)町の公園がモチーフとなっています。「『タコ公園』と呼ばれていて、真ん中に大きなタコの滑り台があって、大好きだったんです」(会場内の作品解説より)

公園魔

内覧会で片桐さんは「40年前の頃から『タコ公園』が良いなと思っていて。僕が作るのならやっぱり(テーマは)『地獄』がいいので、そのタコ公園の地獄版です」と作品のねらいを説明。「発泡スチロールで土台を作って、絵具で色を塗ったら、すぐ終わるところを、全部に粘土を貼り付ける。これが思った以上に、大変でしたね。ぼくひとりじゃとてもやりきれないので、地元の宮代町の町長さんとか、家族とか、仲間たちに手伝ってもらって作りました」と、苦労した制作過程を明かしました。

「公園魔」の背後には階段が付いており、そこをのぼると、化け物の口から顔を覗かせることができます。「公園魔自体は乗れるほどの強度はありませんが、階段と、正面のベロ(滑り台)は座れます」。片桐さんは、集まった報道陣の前で、実際に階段に足をのせて顔を出し、ポーズを取ってくれました。

「公園魔」の背後。階段が付いている
「公園魔」の口から顔を出す片桐さん

記念すべき第1作「俺ハンテープ台」や「日本全国ご当地作品」も 不条理アート粘土作品 「日本人には粘土成分が足りない」

「完成日:1999年11月3日」。解説文にこう日付のある記念すべき粘土道の第1作「俺ハンテープ台」も展示されています。文房具に、片桐さんを模した頭部と手が付けられています。口からセロハンテープが出てくる造形がなんとも独創的です。

俺ハンテープ台

数々の「日本全国ご当地作品」も大きな見所です。個展を開いた都道府県にちなんで制作された「ご当地コラボシリーズ」。中でも、片桐さんが最も印象に残っているのが、「鈴カメレオン」です

「三重県鈴鹿市でやったんです。カメレオンが鈴を持っているというだけで、ご当地と全然関係ないですね(笑)」(片桐さん)。カメレオンは前々から作りたかったもので、鈴鹿つながりで鈴を付けたそうです。

鈴カメレオン

他にも、母親の壊れたバイオリンを使った「バイオリン仁」、妻が以前実際に使っていたドライヤーを用いた「ドライヤサウルス」など遊び心満載の作品も。

しゃれっ気に満ちた片桐さんの感性と、粘土という子供の頃によく触った素材が、童心をくすぐります。見た目はシュールですが、どこか懐かしい気持ちにさせてくれる理由が、ここにあります

バイオリン仁
ドライヤサウルス

少年時代の絵画を初公開! 脇には片桐家のリビング再現コーナー

粘土細工だけではありません。会場には、片桐さんの48年の人生を振り返る「俺年表」、創作の歴史を紐解く「撮り下ろし片桐仁シアター」、雑誌連載のイラスト原画、舞台や映画、ドラマ、CMなどに使うため制作した作品……と多彩な構成が、来場者を飽きさせません。

作品に付けられた片桐さんによる解説も、本人の思考に触れることができて魅力です。「それ、読んでいるだけで2時間ぐらい、かかります(笑)」

俺年表

「公園魔」の近くには、片桐家の自宅リビングを再現したコーナーも設営されました。「ぼくのリビングで『ギリちゃんねる』というユーチューブをやってますんで。ユーチューブを観てる人は『ああ、これこれ』とわかるように。かなりの再現度です」

片桐家リビング再現コーナー

そして、その再現コーナーのわきの壁面には、小学生の時からの絵画も飾られています。今回の個展が、初めての公開となります

実家の壁に貼ってあったのを画鋲を抜いて持って来ましたからね。小学生の時の写生会の絵とか。この広さ(の会場で)で(個展を)やるのは、初めてだったんで。作品も含めて、今までやれなかったことをやろうと。その一貫で、子供の頃とか、うちのリビングの再現とか、いろいろやってます」

「杉戸機関区」。小学5年生の写生会の絵
小学5年生で描いた初の油絵

会場の一角では、ワークショップも実施されます。粘土アート作りを実際に体験できます。

「今の日本人は粘土成分が足りていない。指で触って変なカタチになるという粘土の楽しさを知ってもらいたい。ワークショップでは、家族で風鈴を作ったりとかができます。美術館とか、堅苦しくて、どう観てみていいかわからないなという人も、これを観に来たら楽しいですから。アートの入り口としてこれをきっかけに、美術に興味をもってもらえたらいいなと思います」

「粘土道20周年記念 片桐仁創作大百科展」の情報

「片桐仁創作大百科展」の入り口。左の壁面に片桐仁さんの「俺年表」が掲示されている

[会期]2021年11月20日(土)~12月19日(日)
[会場] 東京ドームシティ・Gallery AaMo(東京都文京区後楽1-3-61)
[時間]11時~19時 ※開催期間中無休、最終入館は閉館の30分前
[入場料] 大人(高校生以上)1200円、小人(小・中学生)800円
[交通]JR水道橋駅東口から徒歩約5分、地下鉄丸ノ内線・南北線後楽園駅から約10分

「粘土道20周年記念 片桐仁創作大百科展」

片桐仁

かたぎり・じん。芸人、俳優、彫刻家。1973年11月27日生まれ。埼玉県出身。多摩美術大学卒。テレビや舞台を中心にドラマにラジオなどと幅広く活躍している。1999年からはアーティストとして創作活動も始め、2015年にイオンモール幕張新都心、16年からは全国のイオンモールで「片桐仁 不条理アート粘土作品展『ギリ展』」を開催するなど4年間で18都市をまわって計約7万8000人を動員した。

文・撮影/堀晃和

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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おとなの週末Web編集部 堀
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