堂々たる姿の表唐門は、奈良・法隆寺や薬師寺などの修復を手掛けた宮大工の名棟梁・西岡常一氏の手による京都市内では唯一の作品。
東伏見宮は国史学や仏教哲学などを研究する顕学で、建築の際は古刹や宮内庁所蔵の宝物からデザインを起こして邸内の装飾に取り入れた。
玄関にある丸いステンドグラスは、古墳時代の銅鏡「直弧文鏡(ちょっこもんきょう)」(直線と弧線を組合せた文様)を起こした。同じく玄関にある欄間は法隆寺の玉虫厨子の蓮華文様がモチーフだ。
直弧文鏡の淵の文様が「フシミ」のように見えるのを気に入り、館内のあちこちに配した遊び心も垣間見える。
屋根瓦やふすまの引手はじめ随所にあしらわれた皇室ゆかりの「裏菊紋」。
3代目の女将・中村知古さん。この日の着物はぶどうがモチーフ。ソムリエの資格を持つ女将らしい装い。
東山連峰を借景とし、四季を通して美しい庭園。春は桜、初夏はつつじやさつき、秋は紅葉、冬は雪化粧が趣深い。庭の奥には離れがある。散策は本館利用の場合のみ可能。
本館2階「寿の間」。本館の客室はすべて南向き。宿泊は1日3組限定。本館の1階、2階のほか庭先にある離れにそれぞれ1組ずつ。ゆっくりとした間取りで寛げる。
変体仮名を嗜む大女将が、いにしえの文化、平安の雅を身近に感じてもらいたいという思いからしたためる。
2階の洋室「花の間」はモダンな設えで、床には寄木張りが施されている。和洋折衷のインテリアの随所に近代建築の特色が窺える。
洋室から続くバルコニーからは大文字山(如意ケ嶽)が目の前に。五山の送り火ではここが特等席。
洋室から続くバルコニーからは大文字山(如意ケ嶽)が目の前に。五山の送り火ではここが特等席。
食事用の部屋は庭園に面した空間。四季折々の風景もエッセンスに。
客間は季節の室礼に整えられる。中秋の名月にちなみ、日本画家・植中直斎作のかぐや姫が飾られた床の間。
万葉集や古今和歌集などから季節に合った句を選び食事に添えるもてなしのひとつ。10月は十三夜のお月見にちなんだお料理が並ぶ。三宝で供される先付の一品はホウレンソウとキノコのおひたしに、エビ、ギンナン、ムカゴを添えて。萩などのあしらいは庭で採れたもの。
庭に3本あるという手入れされた栗の木から採れた栗の甘露煮とアジのお鮨。真ん中には、うずらの卵に巻き付けたタチウオが月光のような煌めきを放つ先付。
松茸とともに、夏の盛りの頃より脂がのった名残鱧を味わう土瓶蒸し。
秋冬の定番は合鴨ロース。自家製の味噌に数日間漬けこんだ風味豊かなロースト。白髪ネギ、はじかみ、らっきょうのシソ漬けを添えて。
本館の入口奥に建つドイツ風建築は、ガレージだった建物を2007年に改築。宿泊客以外も利用できるカフェとして営業している。
朝は宿泊客に朝食後のコーヒーをふるまい、11時からカフェとして一般営業。丁寧に淹れたコーヒーや特製ケーキ、ぜんざいが楽しめる。
庭の木々に囲まれ屋根裏のような隠れ家の雰囲気もある2階フロア。比叡山や京都タワーを望む景色は素晴らしく、窓から心地よい風がふき抜ける。
コーヒーカップは大女将のデザイン。ブレンドコーヒー(800円・税込)にはシナモンが香る固焼きのコウモリビスケットが。店頭販売もあり。