“もふもふ”としたぬいぐるみのような見た目でテレビやSNSで大人気の「シマエナガ」は、北海道に生息する愛らしい小鳥です。そんなシマエナガブームの先駆けとなる写真集『シマエナガちゃん』(講談社ビーシー)を世に出したのが、動物写真家の故・小原玲(おはら・れい)さんでした。報道写真家として国内外で活躍していた小原さんが動物写真家に転身し、この“雪の妖精”を被写体に選んでファインダーから見つめ続けた理由とは―――。
NHKがシマエナガの番組を制作中
「シマエナガチャレンジ投稿大募集!いろんなものをシマエナガにしてみよう!!」。最新映像で生き物の魅力と自然の素晴らしさに迫るNHKの人気番組「ダーウィンが来た!」で、こんな企画が始まっています(募集は2022年9月30日まで)。
「超カワイイと大人気の北海道の小鳥シマエナガ。ただいま番組を絶賛制作中です。そこで『シマエナガチャレンジ』と銘打ってみなさんからの投稿を大募集!」(番組ホームページより)。「日常で見つけたシマエナガっぽいもの(そんなのあるかな?)」「シマエナガ実物を捉えた自慢の写真」「シマエナガをイメージしたダンス(そんなのもあるのかな?)」など「なんでもOK!」として画像や動画の投稿を受け付けています。番組が制作されると、さらにシマエナガの人気が盛り上がりそうです。
SNSでも、ツイッターなどでシマエナガのイラストやぬいぐるみなどの画像投稿が人気。SNSを通じて、シマエナガに魅せられた人の輪がどんどん広がっている状況です。
数々のスクープ写真を撮影した『フライデー』の凄腕カメラマン
話題沸騰のシマエナガですが、ブームの火付け役の一人となった写真家がいます。小原玲さん(1961~2021年、享年60)です。
小原さんは、写真週刊誌『フライデー』の専属カメラマンを振り出しに、国内外のニュースを追いかけてきたフリーの報道写真家でした。『フライデー』には1984年の創刊期から在籍。大きな身体で、被写体に突進して肉薄…。編集部で同僚だった不肖・宮嶋こと報道カメラマンの宮嶋茂樹さん(61)は「特に護送される犯人や疑惑政治家の乗った車への正面からの突撃はすさまじく、当時ついた仇名が『ボンネット乗りの小原』」と、「おとなの週末Web」に寄稿した追悼文の中で、こう称えています。
入院中の田中角栄元首相を捉えた写真など数々のスクープをものにし、編集部を離れたあと、その興味は海外に向かいます。一躍、その名を世界に知らしめたのが、1989年の天安門事件での撮影でした。
中国の民主化を求めて、北京の天安門広場に大勢の学生ら市民が集結。小原さんが撮った1枚には、手前で手をつなぐ学生の向こうに、排除のために出動した人民解放軍の装甲車が写っています。この決定的な写真は、アメリカのグラフ雑誌『ライフ』に掲載され、「ザ・ベスト・オブ・ライフ」にも選ばれました。報道の現場にいる者としては大変名誉なことです。
しかし、この後、小原さんは動物写真家へと転身します。その理由を、自身のブログで次のようにつづっています。
「その理由の1つに天安門事件で自分がジャーナリストとして伝えきれなかったことがあまりにも多かったことです。私は広場で死体を1つも見ていません。広場での怪我人の多くは跳弾です。銃口は高い位置にあったスピーカーや、地面に向けられていました。なによりこの写真は戦車を止めている写真ではありません。学生リーダーたちが、学生が戦車に向かうのを防いでいる写真なのです。しかし、LIFEでもその事は書かれませんでした」
つまり、雑誌では、装甲車が学生らを襲っている構図として掲載され、撮影者が現場で目の当たりにした事実は反映されなかったというのです。