国産の茶葉を使って作られる日本の紅茶「和紅茶」。品種の増加や技術向上に伴い、海外の品評会で賞を受賞するなど、高い評価を受けています。インドやスリランカよりも渋みが少なくすっきり飲みやすいのが特長です。和紅茶を知るためにまず向かったのは、生産地。お茶処・静岡が誇る大茶産地で14年和紅茶を作っている「牧之原山本園」です。国内外で数々の賞を受賞している5代目園主・山本守日瑚さんに和紅茶のことを伺いました。
明治2年から続く静岡『牧之原山本園』
茶園の歴史は古く、明治2年にさかのぼる。山本家は代々徳川家に務めていたご殿医だったが、明治維新後に徳川慶喜公と共に駿府に戻ってきたという。やがて他の幕臣250名と共に牧之原台地に入植する。未開の地であった牧之原を開墾し、お茶の木を植えたのだ。
数々の苦難を乗り越え、この地で茶園は根付き、やがて牧之原は今のようなお茶の一大産地となった。現在の園主・山本守日瑚さんはその5代目に当たる。緑茶と共に紅茶にも力を入れ、「国産紅茶グランプリ2022」で5年連続準グランプリに輝くなど、国内有数の造り手として知られている。
[住所]静岡県牧之原市布引原258
[電話]0548-27-2711
https://makinohara-yamamotoen.amebaownd.com/
茶葉にストレスを与えて 香りの成分を引き出すことで 香り高い和紅茶になる
車から降り立つと、そこは見渡す限りの茶畑。北東には富士山が鎮座し、はるか向こうには駿河湾の水平線がキラキラと光っていた。どこまでも平らな台地には、気持ちのよい風が吹き渡り、新茶を思わせる緑の香りがほのかに漂ってくる。この日本屈指の緑茶どころ、牧之原でも和紅茶が作られているという。
牧之原山本園の園主・山本さんが和紅茶作りに取り組み始めたのは2009年。まだ国産の紅茶があることもあまり知られていない時代であった。きっかけは2006年にべにふうきを植えたことだったという。「べにふうきが花粉症に効くという話を聞いて植えたのが最初なんです」と山本さんは苦笑する。
べにふうきは、1993年に生まれた日本の紅茶品種。インド・アッサム系のべにほまれとダージリン系の品種をかけ合わせたもので、今では和紅茶の代名詞のような品種でもある。べにふうきを植えた数年後、山本さんはお茶のシンポジウムで和紅茶との出合いを果たす。何気なく飲んだその和紅茶のおいしさに改めて驚いたという。
国産紅茶の歴史は、明治政府が輸出用に紅茶を手掛けたことから始まる。一時は盛んに作られていたが、1970年代に入り、規制緩和によって入って来た外国の安い紅茶に押され、国産紅茶は市場から撤退する。しかし2000年頃から再び紅茶を作る生産者がポツポツと現れ、ここ数年で劇的に増えてきた。そして品質の高さから海外でも注目されるようになっている。
「シンポジウムで飲んだ和紅茶があまりにもおいしくて、うちにもべにふうきがあるのだから、これは紅茶を作らないわけにはいかないと思いたったのです」。静岡大学農学部出身という山本さんは、持ち前の知識を生かし、どうしたらおいしい和紅茶になるかを熱心に研究し始めた。やがてメキメキと頭角を現して全国のさまざまなコンクールで上位入賞の常連となっていく。
「植物はストレスにさらされると瞬時に化学反応を起こす。紅茶はその作用を利用して香りの成分を引き出しています。例えば、最初に茶葉を乾燥させる萎凋(いちょう)でもその反応が起きますが、うちではその時に攪拌も加えてより強いストレスを与えているんです」。