現在国内で販売されている新車のほとんどがAT(オートマチックトランスミッション)となっている。クラッチ操作しながら自分で変速操作を行うMT(マニュアルトランスミッション)は、一部のクルマ好きを除いては選ばれることはまれだ。操作が容易なことが売りのATだが、最近は初見では使い方がわかりにくいものが増えている。そんなAT車の最新事情をご紹介しよう。
パッと見てもわからないオートマチックの操作方法
ATといえば、助手席側の操作のしやすい場所にレバーがあって、ボタンを押しながらそれを前後に動かして機能を選ぶものがほとんどだった。どんなクルマでも前から「P」「R」「N」「D」と並んでいるから、初めて乗るクルマでも迷うようなことはなかったのである。
止める時には「P」、走り出すときには「D」、後退するときには「R」といった具合だ。シフトを動かすゲートが直線だったり、階段式になってたりしても、それで迷うようなことはなかった。
しかし、技術の進化とともに自動車の動力も多様化し、モーターやバッテリーをエンジンと組み合わせたハイブリッド車や、エンジンを持たないBEV(バッテリー電気自動車)が登場。環境への配慮もあって、これらが主流となってきている。
そして、純粋なエンジン車とは異なるこれらのクルマの特性や機能に合わせて、ATのシフトレバーは様変わりを見せているのだ。
プリウスに始まったトヨタのハイブリッド車がきっかけに
1997年に世界初の量産ハイブリッド車として登場したトヨタプリウス。エンジンにモーターとバッテリーを組み合わせたこの画期的なシステムは、減速時にはモーターを発電機とすることで余剰なエネルギーを電気に変換してバッテリーに蓄積。加速時にはこの電力でモーターを動かしてエンジンを補助することで高い効率を実現し、燃料消費量を抑えることができる。
このプリウスにはこれまでになかった個性的なシフトレバーが採用された。まずパーキングを示す「P」はボタン化され、押せば「P」が選択される。
そしてシフトレバーは自動的に最初の位置に戻るジョイスティック型を採用。走り出すときはレバーを右下に入れると「D」が選択されるのだが、レバーはばねの力で最初の位置に戻る。この際に右にある「N」を通過する必要があるので、操作としては「右」にいれてから「下」となるのだ。
バックする際に使用する「R」は、同じ用に右の「N」を通過して「上」に操作する必要がある。こちらも操作後にレバーは最初の位置に戻る。
そしてプリウスにはこれまではなかったポジション「B」が登場した。走行中に真下にレバーを下げると「B」が選択されるのだが、これはエンジンブレーキに相当するものだ。従来のATでは「D」の下に数字などがあり、シフトダウンすることでエンジンブレーキを利かせることができた。
プリウスでは「B」に入れるとエンジンの抵抗とモーターの発電を行うことで減速力を得る仕組みとなっている。長い下り坂でブレーキの負担を軽減するとともに、バッテリーへの充電も行うのだ。
便利な機能ではあるのだが、これまでのATにはなかったもの。シフトレバーと合わせて、初めてのユーザーにはわかりにくいものとなっている。
トヨタ車は幅広いラインナップにハイブリッドを用意しているが、デザインに違いはあるものの、基本的にプリウスのシフトレバーを踏襲している。
もはやレバーですらなくなってしまったATスイッチ
ミニバンや軽自動車などの場合、運転席と助手席の間に遮るものがなく、ドライバーが助手席のドアから容易に降りることができるようになっている。こうすることで使い勝手がよくなるだけでなく、圧迫感がないので快適性も向上する。
このように運転席周りは機能と快適性の兼ね合いを考えて、設計時にスペースの取り合いとなっている。そうした中で近年増えているのが、AT操作の「ボタン化」だ。シフトレバーをなくすことで設計の自由度が増し、また乗り降りの際に引っ掛けるようなことも防げる。
日産はミニバンのセレナにスイッチ式のAT操作盤を採用。センターコンソールにあるボタンは横並びとなっており、ピアノ式ATとも呼びたくなるような形状だ。「R」ボタンには大きな突起、「D/M」ボタンには小さな突起がつけられ、誤操作の防止が図られている。
インパネ周りがすっきりするなどデザイン的には優れているのだが、慣れないうちはボタンの位置を探してしまいそうだ。
ホンダはハイブリッド車に「エレクトリックギアセレクター」と呼ばれるスイッチ式のATを採用している。「P」「R」「N」「D」と並んでいるものの、すべてスイッチだ。ただスイッチの押し方に変化がつけられており、特に「R」は押す方向を後方とすることで、誤操作の防止を図っている。
スペース的にはシフトレバーと大きな差はなさそうだが、すっきりした印象に加えて先進性も感じるデザインとなっている。