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小説『バスを待つ男』などの著作がある作家の西村健さんは、路線バスをテーマにした作品の書き手としても知られています。西村さんが執筆する「おとなの週末Web」の好評連載「東京路線バスグルメ」の第5弾は、多摩川を越えてお隣の神奈川県に遠征します。今回は、東京の路線バスではなく、横浜の路線バスに乗車。横浜の魅力的な街を訪ねます。

「陸の孤島」とも言われて

「横浜市本牧」と言えば結構、有名ですよね。歌のタイトルとしていくつも出て来るし、私も聞いたことは何度もある。

ところがここ、地元の人からは自嘲混じりに「陸の孤島」と言われてるらしい。地図で見てみたらなるほど、鉄道のどの駅からも結構、遠い。これは理由の一つとして、この地区が戦後、米軍に接収されてアメリカ海軍の「海浜住宅地区」とされたことがあるようだ。

鉄路では行きにくく、バスでアプローチしやすい街。これはもう、「バスグルメ」に格好の土地ということですな。

てなわけでまたもやって来ました、横浜駅東口のバスターミナル。ただし今回は「神奈中(かなちゅう)」バスではなく、横浜市営バスの「105」系統に乗り込む。

「105」系統に乗り込む

ターミナルを出て左折し、JR根岸線の高架を潜る。そこでまた左折し、線路沿いに走るところまで、前2回と同じ。ただしJR桜木町駅のところで東口側に回り込むことなく、駅前を真っ直ぐ突っ切った。そのまま横浜スタジアムにぶち当たった。おおぅ、これまでとは違うルート、と思うだけで胸が高鳴って来る。

「105」系統

元町商店街を抜けてトンネルへ、きっと異国情緒が…

バスは球場を避けるようにクランク状に曲がり、首都高速狩場線のガードを潜った。そのまま真っ直ぐ走って元町商店街の前を抜け、トンネル(第二山手隧道)に入った。

おおぉ、このトンネル、知ってる! 以前、元町に来た時に見たことある。

でも潜るのは、初めて。そうかぁ。本牧って、このトンネルの向こうにあったのかぁ。

思うと、ますますドキドキが激しくなる。そこは元、米軍の街。きっと異国情緒がまだまだ残ってるに違いない。トンネルを抜けるとそこに広がってるのは、別世界。そういうシチュエーションって絶対、ワクワクしない?

さぁ、トンネルを抜けた。そこはこれまでとは全く違う、アメリカ文化の溢れる街……ではなかった(涙)。普通の日本の街並みが広がってるだけだった。いやいや、この辺りはそうでも、もっと先へ行けば、きっと……。

でも通り沿いには延々、純日本の風景が続くばかりだった―――。

「105」系統

当初はトンネルを抜け、「本牧1丁目」とその名がつく最初のバス停で降りて、通り(その名も「本牧通り」)伝いに歩いてみる積もりだった。そうしたらきっと、異国情緒あふれる風景に出会うに違いない、と思って。

でもこのバス、とにかく乗客が多い。特に「元町」バス停からどっと乗り込んで来て、立錐の余地もないくらい。

まぁ鉄路の便がなく、バスが住民の足の街ですからね。地元の人が生活のために大勢、乗り込むのは当たり前なのでしょう。

だから、腹を括った。この際、終点まで乗ってやろう。そうして、通り沿いの感じを見極めてやろうと思った。そうすれば歩いて戻って来る過程で、どの辺りを重点的に見ればいいか分かるだろう、と。

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終点「本牧車庫前」...
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西村健
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