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駅前で半世紀以上 郷愁の呑み処「のんべい横丁」の歴史

渋谷駅前の山手線沿いに、古きよき昭和の面影を残すエアポケットがある。
その名も「のんべい横丁」
広さ約2~3坪の小さな店が40軒近くひしめき、提灯に灯りがともると、常連客が次々と吸い込まれていく。
 その始まりは、終戦後の闇市。今の光景からは想像できないが、現在の東急本店通りや道玄坂付近には屋台がたくさん出ていたという。国の規制で、それら屋台が移転し、昭和25年に作られた飲食店街が、「のんべい横丁」だ。
どの店も数人入ればいっぱいになる“屋台サイズ”の造りは、そんな経緯に由来する。
 かつて屋台で人気を博していたのは、焼き鳥とおでん。焼き鳥の屋台は荷車の周りにぐるりと鶏や野鳥の肉をぶらさげて売っていたとか。
横丁には、旨い焼き鳥を出す『鳥福』、昔ながらのおでん屋『なだ一』と、その頃から続く名店が今も元気に営業している。いずれもタネは大ぶり。これは“とにかく大きいこと”がご馳走とされた戦後の名残なのだろう。

(なだ一)大きいことがご馳走だった戦後の名残を残すおでん

写真:澄んだダシに約30のタネが浮かぶ。おでん各種

「なだ一」は屋台時代から3代続くのんべい横丁おでん屋。宮大工が手がけたという情緒溢れる店内では、大ぶりのタネが鍋でふつふつと炊かれ、郷愁を誘う。[交]渋谷駅 のんべい横丁

鳥福の2代目店主・村山茂さんによると、
「私が店に立つようになったのは50年ほど前。当時は、渋谷駅の東西南北にこうした横丁があったんですよ。でも今はここだけ。最初からある店も6~7軒になりました。建物の老朽化でいずれ建て直しはやむを得ないけど、横丁文化をいかに残していけるかを考えています」

(鳥福)新旧の客が変わらぬ味に 肩を寄せ合い串を頬張る

写真:秋田の高原比内地鶏のねぎ間、水郷赤鶏のレバーなど、どの串も大ぶり。

「鳥福(とりふく)」は昭和7年から屋台をひき、焼き鳥ひと筋に暖簾を守ってきた。日替わりで約10種のブランド鶏を揃え、紀州備長炭でジューシーに焼いてくれる。[交]渋谷駅 のんべい横丁

 現在、新旧の客が肩を寄せ合う店には茂さんの息子である3代目の姿を見ることができる。
 『鳥福』の2軒隣りには、洒落た洋風の店構え。
「親父は戦争中、車両部隊にいたそうです。戦後駐留米軍のトラック運転手をしていたこともあって、外国文化の影響を受けたのかもしれないね」というのは『野川』の2代目店主・鈴木卓志郎さん。

(野川)文化の香り漂うレトロモダンな酒場

写真:海老やワケギを挟んだ揚げはんぺん、半月。自家製ポン酢で食す

レンガ壁に重厚な木製カウンター、白樺や梅の木を用いた梁、ランプの灯り……。
昭和モダンな空間は、若者には新しく、年配客には懐かしい雰囲気を漂わせる。

「野川」はのんべえ横丁で異彩を放つレンガ造りの一軒。昔は映画関係者や役者の常連客が多かったという。亡き父が戦地ミャンマーで食べた煮物をヒントに作った「ビルマ煮」など、“ここだけの味”で迎えてくれる。 [交]渋谷駅 のんべい横丁

近年では、ビストロやバーが開店するなどニューウェーブもある。
新旧の混沌とした「のんべい横丁」は、まるで渋谷の縮図。
隣接する宮下公園の再整備が始まる予定だが、この一角の昭和な光景と味は、いつまでも残してほしいものだ。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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