FAXの内容は消えてしまった
1970年代末から1980年代、FAXが普及して行った。無類の新しい物好きの清志郎は真っ先にFAXを導入した。ぼくもいち早くFAXは導入した。ある日、清志郎と話している時、FAXの話になった。まだ一般にはFAXが珍しく高価だった頃だ。どちらかと言うことなくFAX通信をしようということになった。
ぼくがロック・シーンや政治、社会で何か思うことがあったら文章にして清志郎にFAXする。すると清志郎がその文章からイメージしたイラストをぼくにFAXして来るというのがFAX通信だった。およそ3か月、約10数通でどちらも忙しくてFAX通信は自然解消した。
1990年代、清志郎について文章を頼まれ、FAX通信を探し出した。残念なことにそれらは文字や絵が消えていた。初期のFAXは感熱式で、後の印刷式と異なり、経年劣化で消えてしまうのだった。
何にでも夢中になった、大人になっても無邪気な少年の感性を持ち続けた忌野清志郎が恋しい。
岩田由記夫(いわた・ゆきお)
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。