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ドキュメンタリー映画『タカダワタル的』がヒット

ある時、高田渡に会ったら怒っていた。ビールを勧めながらその話を聞いた。

“昨日、NHKのテレビに出たんだよ。まず1曲唄えというから、弾き語りをしたんだ。さすがNHK、仕事が早いと思ったら、控室で待っていてくださいと言うんだ。仕方がないから待っていたら、ディレクターが来て、また演ってくださいと言うんだ。そして、今度は本番の衣装でお願いしますとか言ってさぁ。バカヤロー、本番の衣装なんてあるかと言ったら、あっ、じゃそのままお願いします、だって。今度こそ本番だと思って歌ったら、また控室で待ってくださいだぜ。もう帰ろうかと思って、ディレクターに言ったんだ。そしたら、あと1回、本当にあと1回だけですって謝るから、結局、最後の1回も演ってきたけど、あれは電気代の無駄だな。昔の俺だったらとっくに帰ってたよ、きっと。3回歌っても、ギャラは1回分だけだし…”。高田渡、50歳頃の話だ。

テレビ嫌い、映像嫌いの高田渡だったが、2004年、監督タナダユキ、出演、高田渡と柄本明による『タカダワタル的』が劇場公開され、スマッシュ・ヒットとなった。その続編とも言える白石晃士監督、出演が高田渡、泉谷しげる、柄本明に息子の高田漣というメンバーの『タカダワタル的ゼロプラス』も2008年に劇場公開されている。

天国で高田渡はそういった映画公開を“まあ、俺は死んじまったんだから、勝手にやってくれよ”と、あの人なつっこい笑顔で言っている気がする。

2004年に公開された映画『タカダワタル的』(右上)。デビュー35年を迎える高田渡の活動や日常を追ったドキュメンタリー

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

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