デビュー盤ライナーノーツの“恥ずかしい表現”
Tさんからの電話は邦楽セクションに移動し、竹内まりやという新人をデビューさせるのでライナーノーツを書いてくれないかというものだった。Tさんはぼくが洋楽・邦楽を分けへだてなく聴いていたこと、あまり積極的にライナーノーツを書かないことに着目して、そういう依頼をしたと後に教えてくれた。
かくして、ぼくはライナーノーツ執筆のためにデビュー直前の竹内まりやと逢えた。杉真理の教えてくれた通り、美人でしかも明るく聡明なことが、話していてすぐに伝わって来た。しかもライナーノーツ用に頂いたアルバムのカセット音源を聴くと歌が新人と思えないほど上手い。後の日本を代表するアルバム・セラーになるまでは予想しなかったものの、相当に期待できるミュージシャンとすぐに信じられた。
今、竹内まりやのデビュー・アルバム『BEGINNING』(1978年)のレコード盤を引っ張り出して来た。彼女の生い立ち、音楽観などを紹介している。ライナーノーツの締めくくりには“どうでしたか竹内まりやは?’78年の“ミス桜の女王”の準ミスに選ばれた保証つきの可愛い娘ちゃんです。”と自分は記していた。今読むとかなり恥ずかしい締めくくりだ。あえて言わせてもらうと最後の部分は、キャリアのほとんどない竹内まりやを売り出したい、レコード会社からのこれは入れて欲しいという要望だった。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。