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旅館の広間に入ってきたとたん、騒ぎはぴたっと収まった なぜ「リーダー」と呼ばれるのか

旅館に戻るとマーティンを除くメンバーはテレビが置かれた大広間でふざけ始めた。プロレスごっこだ。マーティンはシャワーを浴びて広間に入って来た。彼が入って来るとメンバーの騒ぎがぴたっと収まった。誰かがテレビの前の特等席に椅子を運び、そこにマーティンが座る。彼が煙草を口にするとメンバーがライターの火を差し出す。灰皿が運ばれる。何となく場がピシっと締まった。

別にマーティンが尊大な態度でそういったことを望んでいるのでは無い。軍隊式ではない。現代で言うパワハラでも無い。メンバー全員が音楽的にも人間的にも心から鈴木雅之という人間を信用しているのが伝わって来た。だから彼はリーダーなのだ。リーダーだから、シャネルズが活動していなくとも桑野信義が心配だったのだ。

義理と人情。現代では失われつつある人との関係かも知れない。だが、そこに人間のソウルがあるのではなかろうか。マーティンの好むソウル・ミュージックを愛する人たちは同胞を心をこめてブラザーと呼ぶ。そこから、それだからソウル・ミュージックが生まれる。それは義理と人情の世界に近いものだとぼくは思う。だからマーティンは日本人にとってのソウル・ミュージックを歌い続けているだろう。

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

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