三種の包丁は毎日研ぐ
板前の仕事に、難しい、易しいの違いはありません。すべては基本がしっかりできているかどうかに懸かっています。
それにしても最近は便利になったものです。ご飯を炊くときも、炊飯器があるから水加減さえキッチリできていれば失敗することはありません。昔と違って米のヌカが少ないから4、5回も研げば十分です。
炊き上がったシャリは、水気をよく拭き取ったシャリ鉢で手早くシャリ切りをします。シャリ切りというのは、ご飯に酢を回し掛けながらしゃもじで切るようにして合わせることです。米の一粒一粒に酢を行き渡らせるのがコツで、ここで手を抜くと米が団子になってボソボソになるから気をつけなくてはいけません。私の若い時分には、シャリが団子にでもなっていようものなら親方に本気でぶっ飛ばされたものです。
刀が武士の魂であるように、板前にとって包丁は命同様大事なものです。私の場合、刺身包丁、柳刃包丁、出刃包丁の三つを使っています。それぞれ使いみちが違いますが、重要なのは包丁を研ぐということ。
板前の使う包丁は裏面が平らの片刃と呼ばれるタイプで、研ぐときの基本は「裏刃一、表刃九」。はじめに裏刃を軽く研いで平らにします。次に、表刃に返し、丁寧に刃先が真っ直ぐになるように研いでいきます。左手の親指の爪に刃を当て、引っ掛かって動かなければ研ぎ上がった証拠です。
包丁は毎日、河岸から上がった後で研ぎます。1日でもサボれば、切れ味は落ちますからね。包丁の寿命は、私の場合で5年くらいでしょうか。値段は5万円くらいのものが使いやすいですかね。この包丁1本で稼ぎ出す額は……おっと、せっかくの話が銭金で終わっちゃ台無しです。
(本文は、2012年6月15日刊『寿司屋の親父のひとり言』に加筆修正したものです)
すし三ツ木
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