ティモンディ前田裕太の“おとな”入門

【ティモンディ前田裕太の“おとな”入門】第12回 「人付き合い」編(1)「芸人前田」の出しどころ

お笑いコンビ「ティモンディ」前田裕太さんの、「目指せ、理想の大人」をメインテーマに掲げた連載コラム。30代を目前にした前田さんが「大人」を目指して過ごす日々を、食・趣味・仕事など様々な視点で綴ってくださいます。連載は、第…

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お笑いコンビ「ティモンディ」前田裕太さんの、「目指せ、理想の大人」をメインテーマに掲げた連載コラム。30代を目前にした前田さんが「大人」を目指して過ごす日々を、食・趣味・仕事など様々な視点で綴ってくださいます。連載は、第1・3木曜日に更新です。「(理想の)大人ってなんだろう?」を一緒に考えながら、前田さんの成長を見守りましょう!
今回から、「人付き合い」編が始まります。歳を重ねても、やはり他人と関わるのは非常に難しいこと。今回は、特に仕事の場において前田さんを悩ませる、「芸人」としての立ち振る舞いのお話です。

人付き合いにおける、学生と大人の違い

子供の頃と比較すると、大人になってからの方が人付き合いが楽になった気がする。それは、コミュニケーション能力の向上うんぬんが起因している訳ではない。

学生の頃は、その近くの地域に住んでいるという理由だけで、同じ学校に通うことを決められて、育った環境も価値観も違う人間が、クラスという1つのコミュニティにまとめられるのだ。そりゃ肌が合わない人間がいて当然。

中学校の頃の女子バスケ部なんて、本当よく揉めていたし。

体育館の前で円になって集合していて、顧問の先生が仲を取り持とうとしていたのをよく目にした。

ソフトテニス部もか。

ってか、なんか大体揉めてたな。思春期だから、を差し引いてもお釣りがくるくらい勃発してたような気がする。

外から見ていたから、いざこざの内容はよく分からなかったのだけれど、誰が悪いとか、誰に責任があるとか、そんなような話だった気がする。

そりゃ部活動への熱量も価値観も違う人が集まって1つのものを目指すのだから、人間関係も全員が円滑に行かなくて当たり前。

顧問が冷や汗かいて仲を取り持とうとしていたけれど、そりゃ衝突もするわなあと、他人事で見ていた。

大人になれば、同じような目的や志を持った人間が集まるコミュニティに属することになるので、昔のような衝突は必然的に少なくなる。

大人になってもベイプレードが如く相手を倒すべく必要以上にぶつかり合っている人を見かけるが、ああいう類いの人間には近づかないのが一番だ。

それでもやはり、人付き合いは難しい

思い返してみると、昔から私は人と衝突することから逃げてきた。

大人になってからは、衝突しても構わない!と思うほど熱量がある仕事の時だけ意見を出すのだけれど、基本的には何事も穏便に進んでいくのを是としている。それは今も変わらない。

私は、自分ルールというか、これはこう、と決めることが多いので、それから外れた選択をする人間に対して、構えてしまうことが多々ある。

だから、それを伝えたところで衝突するのが目に見えているため、初対面の相手であっても、少し仲がいいと思える相手であっても、距離を取って人と接することが多い。

相手のことを深く知らなければ、それは酷いだろ、とか最低だな、とか思わないで済むし、予防線を張ることで、浅いかもしれないけれど、円滑な人付き合いができる。

他者と友好的な交流ができるのが、大人なのであれば、きっと私は大人と分類されるような対応ができていると思う。

深く立ち入らなければ苛立たないし、強い言葉を言わなければ衝突することも少ない。

とはいえ、大人になり、衝突を避け、似たような属性を持つ人間で周囲を構築したとしても、人付き合いは難しい。

というのも、職業柄とても悩む瞬間がある。

複数人で話をしていて、誰かがボケとも捉えられるような発言をしたときにツッコむか否かの問題である。

相手が芸人であれば、多少強めにツッコんだとしても、悪く思う人はいないし、なんなら喜んでもらえることが多いので、先輩だろうが関係なく「おかしいだろ」とか言えるのだけれど、これが芸人相手ではない場合、話が変わってくる。

芸人以外の職の相手に対して「何言ってんだよ!」とツッコむと、確かにその場では笑いが起きるものの、それをボケのつもりで言っていなかった人だった場合、相手を傷つけることにはならないだろうか。

とても迷う。

傷つけてしまうのであれば、間違いを指摘するのも野暮だし、その発言をスルーするのが一番円滑にその場を切り抜ける手段なのだけれど、「あの人芸人なのにツッコんでくれなかった」とガッカリされるのも癪だ。このラインが非常に難しい。

「芸人前田」の顔は、注意深く出そう

以前、映像コンテンツで50メートル走のタイムを計るという企画があった。

元から、そこまで速くはなかったけれど、高校時代の50メートルのタイムを聞かれたので、6秒2です、と答えたのち、その数字から衰えてるか、実際に走って計測することになったのだ。

一生懸命走ったので正直しんどかった。

なんで大人になってまで全力で走らないといけないんだよ、とは愚痴をこぼさない。私は大人なのだ。

ただ、高校卒業ぶりに全力で走ったということもあって、自分でも衰えたなあと重くなった脚を実感しながら、それでも全速力で走った結果、7秒を計測した。

なんだか遅くなってしまったなあ、でも、まあそりゃそうだろう、と自分の中で思い、「いやあ、だいぶ遅くなったなあ」なんて口にしたら、「いや、ほんと速いですよ、凄いです!なんなら速くなりました!」なんてスタッフさんが言ってきたもんだから、「凄くねぇわ!」と反射で言ってしまった。

息が上がっていたら無意識に芸人の前田がムクッと土から顔を出してしまったのだ。その後、そのスタッフさんを見たら、なんだか申し訳なさそうな顔をしていて、ふと我に返る。

きっとこの人は、遅くなったなあ、と口にしていた私が落ち込んでいたように思って、励ましたつもりで言ってくれたのだろう。

それを、強めの言葉で、なんて酷い返しをしてしまったのだろうか。

周囲は笑ってくれたものの、驚きと申し訳なさを顔に滲ませたスタッフさんを見て、いかに自分の言葉が鋭利なものになり得るかを感じた。

お前は出てくるんじゃない、と土から顔を出した芸人の前田を地面にねじ込み顔を沈めさせる。

ズブズブと音を立てて芸人前田は地から姿を消すが、一度顔を出して声を上げてしまっては、もう遅い。

あんな返し、本来の私の人付き合いのスタンスでは言う訳ないのに、お笑い芸人、という肩書きを背負った瞬間に、そんな一言が出てしまうのも問題だ。

というより、ツッコミって、人としてどうなんだろう、とか、そんなこと言わなくてもいいのではないか、と思うようなことも言わなければならない時がある。

カメラが回っていて、仕事として言わなければならない時は、心を鬼にして、コメントしたりツッコんだりするけれど、プライベートでは、なるべく芸人が顔を出さないようにして、今まで通り、一線を引いた人付き合いができるよう心がけようと思う。

しっかりと地面を踏み固めて、必要な時以外は、芸人前田が土から顔を出さないように気を張っていないといけない。

前田裕太(まえだ ゆうた)
1992年8月25日生まれ、神奈川県出身。愛媛県の名門、済美高校野球部の同期である高岸宏行とのお笑いコンビ「ティモンディ」のツッコミ担当。趣味はサッカー観戦、読書。テレビ番組で披露した絵の実力も話題になるなどマルチな活動で注目を浴びている。コンビの野球経験をいかしたYouTubeチャンネル『ティモンディチャンネル』は登録者数25万人超え。

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