ピカソ風自画像に挑戦~グランドプリンスホテル高輪でイベント開催
ところで肝心のワインのラインナップだが、ArtBarでは特に銘柄にこだわっているわけではなく、予算に合ったワインを赤・白グラスで用意しているとのこと。もう少し「ワイン寄り」の話はないかとさらに深掘りしてみたら、以下のArtBar出張イベントが出てきた。
〈Takanawa Royal ArtBar〜ピカソ風自画像に挑戦〜〉
これは、東京・港区のグランドプリンスホテル高輪がArtBar Tokyoとコラボして開催する1日限りのイベントで、同ホテルがグループで開催中の「Spain Fair 2022」の一環(6月25日開催)。会場は100年以上の歴史を誇る貴賓館。ピカソ風自画像の制作体験、フリーフロー(飲み放題)の飲み物(赤・白ワイン、ビール、ソフトドリンク各種)、タパス盛り合わせがセットになった2時間のプランだ。料金は、9300円(宿泊がセットになったプランは1万8800円)。ワインは、乾杯用の泡がスペイン・カタルーニャ地方のポピュラーなカバ。白・赤はいずれもスペイン・アラゴン州の生産者「ボデガス・ボルサオ」のベースラインが用意されている。
ボルサオは僕も以前訪ねたことがある。キリストの肖像画に「独自の修復」をして世界中の話題となったおばあさんがいたが、このワイナリーは彼女が暮らす町のすぐ近くにある。ガルナッチャ種の赤ワインを柱に、コストパフォーマンスに優れた肉厚でチャーミングなワインを造る。ホテル側の話によると、この企画は人気で、予約でほぼ満席だが、興味のある人は問い合わせてみてほしいとのこと。
『ゲルニカ』を模写しながら、世界の平和を考えたら?
ペイント・アンド・シップというアクティビティには多様な可能性を感じる。そもそもワインは人と人をつなぐものだ。例えば、ピカソの『ゲルニカ』を模写しながら、ワインを飲み、世界の平和について考えるというのはどうだろう? いや待てよ、19世紀イギリスの芸術家・美術評論家・作家のフィリップ・ギルバート・ハマトンはその著書『知的生活』の中で、「ワイン党は頭はきれるが興奮しやすい。一方、ビール党は鈍重だが、その鈍重さの中には平和がある」(三笠書房刊、渡部昇一・下谷和幸訳)と述べている。この企画はビールに譲るべきか?
最後に小ネタをもう一つ。今日、フランス・ボルドー5大シャトーの一角を成すシャトー・ムートン・ロートシルトは、1855年のメドック地区の格付け制定時点では第2級の格付けで、以来、第1級の実力があると言われながらもその地位に甘んじていたが、100年以上にわたる奮闘の末、1973年ヴィンテージで悲願の第1級昇格を果たした(メドック格付けにおける歴史上唯一の変更)。この記念すべき年のラベルに使われたのがピカソの『バッカナール』という作品だった。ちなみに、ピカソはこのヴィンテージと同じ1973年の4月に他界している。
ワインの海は深く広い‥‥。
Photos by Yasuyuki Ukita
写真協力:ArtBar Tokyo
浮田泰幸
うきた・やすゆき。ワイン・ジャーナリスト/ライター。広く国内外を取材し、雑誌・新聞・ウェブサイト等に寄稿。これまでに訪問したワイナリーは600軒以上に及ぶ。世界のワイン産地の魅力を多角的に紹介するトーク・イベント「wine&trip」を主催。著書に『憧れのボルドーへ』(AERA Mook)等がある。