(3)「手延べ」かそうでないか食品表示基準では、「干しめん」と「手延べ干しめん」とは、区別して表示することが義務付けられています。「手延べ干しめん」はつぎのように規定されています。 『干しめんのうち、食用植物油、でん粉又…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「うどん、ひやむぎ、そうめん」です。
文:三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治
似ているようでどこか異なる3種類の麺
日本の伝統的な麺類である「うどん」、「ひやむぎ」、「そうめん」。色合いや風味は、似ているようで、どこか異なる感もあるこの3種の麺ですが、食品表示基準(乾めん類)では、何の違いによりこれらを区別しているでしょうか?
(1)原材料の違い
(2)製造法の違い
(3)麺の太さの違い
「乾めん」にヒントが…
答えは、(3)の「麺の太さの違い」です。
うどん、ひやむぎ、そうめんには、いずれも「生めん」と「乾めん」の2つのタイプがあります。うどんではいずれのタイプもよく見られますが、そうめんとひやむぎの場合はほとんどが乾めんです。
食品の表示ルールである「食品表示基準」(違反への罰則規定あり)では、生めんについては実はこの3つの名称を区別する規定はありません。それどころか、「生めん類の表示に関する公正競争規約」では、いずれも「うどん」と分類されています。
一方、乾めんの場合、食品表示基準では、麺の太さの違いにより、以下のように名称を使い分けることができます。
・「干しめん」は以下のように表示することができる。
長径1.7mm以上→干しうどん/うどん
長径1.3mm以上1.7mm未満→干しひやむぎ/ひやむぎ/細うどん
長径1.3mm未満→干しそうめん/そうめん
・「手延べ干しめん」は以下のように表示することができる。
長径1.7mm以上→手延べうどん
長径1.7mm未満→手延べひやむぎ/手延べそうめん
したがって、食品表示基準では、うどん、ひやむぎ、そうめんを分けるものは、単純に「麺の太さ」ということになります。
うどん、ひやむぎ、そうめんの「麺の太さ」以外の違いとは?
パスタを考えると、原材料や製造法がほぼ同じでも、形状や大きさ・太さが異なれば食感や風味まで異なって感じられるというのは、理解できるところです。しかしそれでも、うどんとそうめんの違いが麺の太さの違いだけというのがどうも腑に落ちないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。その理由について考えてみます。
(1)「生めん」か「干しめん」か
うどんの場合は、乾めんは生めんに比べて味が落ちると言われています。一方、そうめんやひやむぎは乾めんの方が美味しいと言われる傾向があります。
うどんでは、生うどんのコシやソフトな弾力などを乾めんで再現することは難しいようです。そのため干しうどんの製造では、タンパク成分の含量を低くしたり、ゆであがり時間を短くするためにデンプンを混合することもあるそうです。うどんは太いため、乾燥に時間がかかることもマイナスです。
また、乾めんは製造後の保存期間が長くなると食感が硬くなるため、めんが太いうどんではそれがマイナスとなりますが、そうめんやひやむぎのように細いめんの場合は、それがプラスにはたらきます。一年越しの手延べそうめんは古品(ひねもの)と称し、そうめんの中でも一番美味しいものとして昔から美食家たちに珍重されていると言います。
以上のことから、うどんでは生めんが好まれ、そうめんやひやむぎでは乾めんが好まれます。
(2)原材料の違い
うどん、ひやむぎ、そうめんのおもな原材料は「小麦粉」、「食塩」、「水」です。ただしそうめんの場合は、製造中に細く引き伸ばす工程で、めん生地間の付着やめん生地の乾燥を防止するために、少量ですが食用植物油を塗布するのが一般的です。逆にうどんの原料に植物油を加えることは基本的にありません。
また、めんの太さの違いは、使用する小麦粉の違いにも影響します。細目のめんでは硬い食感が得られる小麦粉を使い、太目のめんではソフトな食感を得られる小麦粉を使用するのが普通です。それが食感だけでなく、風味の違いも生み出します。
(3)「手延べ」かそうでないか
食品表示基準では、「干しめん」と「手延べ干しめん」とは、区別して表示することが義務付けられています。「手延べ干しめん」はつぎのように規定されています。
『干しめんのうち、食用植物油、でん粉又は小麦粉を塗付してよりをかけながら順次引き延ばしてめんとし、乾燥したものであって、製めんの工程において熟成が行われたものであり、かつ、小引き工程又は門干し工程においてめん線を引き延ばす行為を手作業により行ったものをいう。』(食品表示基準より抜粋)
「手延べ」というと「手作業で行うもの」というイメージがあるかもしれませんが、機械化の進んだ現在では、工程のすべてを手作業で行う生産者はほとんどいません。ただし小引き工程または門干し工程では手作業が求められます。
※小引き工程:かけば工程(よりをかけ、交差させつつめん線を平行かんにかけること)を経ためん線を引き延ばすこと
※門干し工程:乾燥用ハタを使用してめん線を引き延ばしてめんとし、乾燥させること
(参考[5]に写真付きの説明があります)
手延べのポイントは、ねじるように縒(よ)りをかけながら、細く引き伸ばしていくというところです。また、その工程の間に、何度も熟成を重ねます。こうして手間暇をかけて作られた手延べめんには、機械で細く裁断された機械麺とはまったく異なる独特のコシや歯切れ、風味が生まれるのです。手延べでないそうめんは「細いうどん」とも言えますが、手延べそうめんは、それとは別物であると考えた方が良いでしょう。
ちなみに、平成24年度の手延べ干しめんの生産量のうち、約90%が手延べそうめんとなっています(参考[4])。
いかがでしょうか。うどん、ひやむぎ、そうめんの区別は、めんの太さの違いによるものですが、それはあくまで規格上の話です。実際には、ここで取り上げたような違いや、食べ方の違い(うどんは熱いのが好まれ、そうめん・ひやむぎは冷たいのが好まれる)などにより、それぞれ独特の味わいの違いが生み出されているのです。
(参考)
[1] 食品表示基準
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=427M60000002010
[2] 生めん類の表示に関する公正競争規約
https://www.jfftc.org/rule_kiyaku/pdf_kiyaku_hyouji/noodles.pdf
[3] 日本農林規格 手延べ干しめん(農林水産省)
kikaku_itiran2-352.pdf (maff.go.jp)
[4] 日本農林規格の改正について「手延べ干しめん」(農林物資規格調査会)
日本農林規格の改正について「手延べ干しめん」 (maff.go.jp)
[5] 揖保乃糸の特色(兵庫県手延素麺協同組合)
https://www.ibonoito.or.jp/feature/work.html