2022年の「土用の丑の日」は7月23日と8月4日の2日。がっつりうなぎを食べて、暑い夏を乗り切りましょう!
夏のご馳走・うなぎは東京に限ったことではない。九州にはせいろ蒸しがあり、名古屋にはひつまぶしがあるように、全国各地でうなぎは愛され続けている。ここでは、週末に少し足を延ばして出かけたい水戸・小田原・浦和という東京近郊にある「うなぎの街」で実食調査。その味、ボリュームに大満腹の旅を約束してくれる店を紹介する。
水戸 歴史と伝統、そして矜持がうなぎを美味しくする
『ぬりや 泉町大通り店』 @水戸
存在感十分なうなぎはほろりほどけるなめらかさ
なんてこった。肉厚なうなぎを前にして感嘆の声が漏れてしまう。私が松尾芭蕉ならこの感動を俳句にしたためただろう。プリンとした身は箸でつまんでも崩れずしっかりと存在感を主張する。しかし一度口に入れると、ほろっとほどけてなめらかな脂身と凝縮された旨みを感じさせる。
上うな重 5000円
この日のうなぎは3.5尾で1キロという特大サイズ。その日一番良いものを問屋から仕入れるという。こだわるのはメインのうなぎだけではない。薬味には本わさび、山椒は飛騨高山の極上品を使用している。3代目は「何よりも素材が重要」と話す。先代の頃より特に素材の選別に力を入れているそうだ。
3代目が追いかけるのは先代の「お客様に喜んでもらいたい」という姿勢。食前、食中、食後に出されるお茶が異なるのもそのおもてなしの心ゆえのこと。すべてにおいて隙がない極上のうなぎ体験を味わおう。
[住所]茨城県水戸市泉町3-1-31
[電話]029-231-4989
[営業時間]11時半~15時(土・日・祝11時~)、17時~20時半(LO)
[休日]火曜日
[交通]JR常磐線ほか水戸駅北口から徒歩25分、駅からバスに乗車「泉町三丁目」下車すぐ
『中川楼』 @水戸
創業200年変わらぬ心意気と進化する味わいが老舗の矜持
戸をくぐった瞬間にハレの気分を感じる。廊下に生けられた花や目に美しい器、仲居さんの温かい声かけがそんな気持ちにさせるのだろう。同店は1822年創業。江戸時代より続く水戸随一の老舗うなぎ割烹だ。
蒲焼定食 4840円
職人の手で丁寧に焼かれたうなぎは香ばしくもっちりとした食感。皮目と脂身のなめらかさはまるで絹のよう。うなぎの皮をこんなに美味しいと思ったのは初めてだ。ここまでに仕上げるのに相当な手間隙をかけているはずだが、あえてそれを誇るようなことはない。
「美味しいと食べてもらうのが一番うれしい」と板長の川上さんははにかむ。その軸にあるのはお客が求める味。「街の人に育ててもらった」と語る6代目女将は、継ぎ足し受け継がれてきたタレでさえもその時代に求められる味に合わせて変化させてきたと言う。実るほど頭を垂れる稲穂かな。長く愛される秘訣は味わいだけではない。
[住所]茨城県水戸市泉町3-5-6
[電話]029-231-3318
[営業時間]11時~22時(LO)
[休日]不定休
[交通]JR常磐線ほか水戸駅北口から徒歩25分、駅からバスに乗車「泉町三丁目」下車すぐ
『田村川魚店』 @水戸
うなぎの味わい、白米の旨さに前のめりになってかき込むこと必至
「うちは労働者のうなぎ家だから」と自称する同店。労働者の、と言っても決して量を重視というわけではない。
カリッとした皮目に舌の上でとろける脂身。54年間継ぎ足されるタレはあっさりしつつも熟成されたまろみがある。それらを受け止めるのは炊き立ての香りたつ白米。食欲をストレートに誘う味に香りに、思わず前のめりになってかき込んでしまう。そんな美味さだ。
鰻重上 3300円
もとは川魚漁を営んでいたという同店では、今でも市内を流れる那珂川の天然うなぎや鮭の提供もある。天然もののうなぎが獲れるのは6~7月からで鮭は10月上旬から。天然鮭をその場で捌いていただくイクラは甘みが別格とのことで、実は隠れた名物。不漁の日もあるので事前に電話で確認してから訪ねるのが吉だ。
[住所]茨城県水戸市若宮町518-1
[電話]029-226-9359
[営業時間]10時~20時
[休日]月曜日
[交通]鹿島臨海鉄道大洗鹿島線東水戸駅から徒歩15分
『うなぎ 川桝』 @水戸
その旨み、柔らかささらにはご飯に隠されたうなぎまで驚きに満ちている
数多のうなぎ屋を取材してきた小誌編集者も同店のうなぎには驚いた。なんと言っても柔らかい。香ばしくもふっくらとろとろの身が口の中でとろける。こんなうなぎがあるなんて。キリッとしたタレもいい。山椒をかけるのも忘れ、気付けば完食していた。
同店の3代目曰く「裂き、焼き、蒸しが全て揃うことで美味しくなる」とのこと。自店だけでなく東京や九州のうなぎ屋で経験を積んだ結果、出した答えだ。100年を超える老舗の技に磨きがかけられたことで完成したうなぎは、箸を入れると淡雪のように身がほどける。
鰻重 4400円〜(写真は上5500円)
儚いまでの柔らかさを実現させる焼き方には相当な技術が必要だろう。焼くのは難しいんじゃありませんかと尋ねると、「プロだからね」との答え。これぞ、職人だ。
[住所]茨城県水戸市宮町1-3-23
[電話]029-224-2154
[営業時間]11時~20時半LO
[休日]不定休(主に日曜日・祝日)
[交通]JR常磐線ほか水戸駅北口から徒歩5分
江戸時代から有名な水戸のうなぎ!
水戸といえば黄門さまに納豆に……そして“うなぎ”だ。なーんて今だから偉そうに言えるが、実際に訪れるまでは歴史の街という印象だった。都心から特急に乗って一時間ちょっと。徳川御三家の水戸藩政下で栄えた城下町は、歴史の色が濃い。
水戸藩士の教育施設「弘道館」や梅の名所として知られる「偕楽園」に「水戸東照宮」など。水戸徳川家ゆかりの史跡が多く残っている。一方、偕楽園内の湖にはうなぎが生息しているし街を歩けば目に入る「うなぎ」「うなぎ」「うなぎ」の文字……。地元の人に聞くと、湿地の多い土地柄、水戸は古くよりうなぎの産地。
今でも市内を流れる那珂川では天然うなぎが獲れるらしい。水戸の老舗うなぎ割烹『中川楼』の女将の話では、水戸藩の貧乏武士はうなぎの串を作り糊口をしのいだ、なんて言い伝えがあるそう。しかも水戸藩武士の丁寧な仕事っぷりに「うなぎの串は水戸ものに限る」と言われたほどの品質で江戸で大人気だったともいうから面白い。
水戸市内に老舗の鰻屋が多いのはこうした背景があってのことのようだ。辞書の水戸のページを更新しておこう。水戸はうなぎの街なのだ、と。